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阿飛正傳/欲望の翼 台北で復刻上映。台湾人の笑いと悲鳴に驚きながら、1960年の香港へ、再び。

旅先でライブや映画・聖地巡り

1990年に公開された「阿飛正傳」(邦題:欲望の翼)。私が香港の映画館で観たのは1991年5月か、6月だったと思います。もうロードショーは終わっていたので、美孚の小さな映画館へ行った覚えがあります。まだインターネットは普及していなかったから、新聞で上映しているところを探して。

そのデジタルリマスター版が2018年9月28日から、台北で上映されました。前売り券の発売は9月12日、主演の張國榮(レスリー・チャン)の誕生日。当日西門町で別の映画を観た帰りに國賓シネマの売り場へ行ったら数人窓口に並んでいて、私の前にいた男性も「阿飛正傳」の初日のチケットを購入していました。

「阿飛正傳」を広東語ではなく、中国語の発音で言うのは非常に奇妙な感覚がある。うまく伝える自信が無かったので、窓口の人が確認のために繰り返すマイク越しの声を、じっと聴きました。

 

上映は19:30から。19時過ぎには、もう大勢の人が映画館の周りに集まっていました。台湾の人は開演時間にわりあいと大らかな印象があるので、意外だった。全て指定席だからあわてなくてもよいのに、楽しみにしてきた人が多かったのかな。

入場口でチケットを見せると、台湾での修復版上映紀念ポスターをもらえました。

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台湾での上映も広東語原版でほっとする

台湾でも最近ではシネコン、比較的コンパクトなシアターをいくつも持って複数の映画をかける映画館が定着しています。チケットを買った日に見た場所は「視聴覚室ですか」と笑いそうになるほど小さな、8列ほどのミニシアターでした。

上映開始1分前まで誰もこなくて寂しいので撮影しました…

でも、阿飛正傳を上映したシアターは1000人は入れたのではないかしら。あんなに大きなスクリーンは久しぶり、客席はほぼ満員。映画という娯楽を楽しみにした時代が戻ったようで「ここにあの場面が映し出されるの」と、始まる前からドキドキします。

見やすいセンターのエリアは、どうやら「団体さん」のようでした。顔見知り同士で声を掛け合い、ちょっと高い声で笑ったり食べ物を回しあったりしていたので「上演中にガサガサうるさくされたら嫌だな」と少し不安だった。
でも、客電が落ち、客席が闇に隠れてスクリーンと非常口の灯りだけになると、そこに大勢の人がいるとは思えないほどの静粛が、暗闇に沈殿していくようでした。

オープニングの場面、レスリー演じる旭仔の足音が、南華體育會の売店へ近づいていくのが聴こえてくる。

ほんの少しだけ心配だったのは、「まさかの中国語吹替え」になっているかもしれないということ。

始まる前、一緒に観に行った友達に「広東語なの?」と聞かれて「えっ」と不意を突かれました。台湾のテレビで放送される香港映画はほとんど「中国語」に吹き替えられていて「二か国語」選択で言語に戻すこともできないことが多いので、私は観ません。広東語原版ではない香港映画なんて、気の抜けたビール、ぬるいコーヒー、冷たくなった小籠包のようなものだと思います。

でも、台湾人には広東語が好まれないのも知っている。下品だ、うるさい、耳ざわりとはっきり嫌う人がいることも知っている。私の広東語訛りの中国語を聞いて警戒した台湾人に

「あんたはここの人じゃないようだね」

と剣呑に尋ねられたことが、何度もありました。

広東語が好きだという人もいるけれど、それは本当に少数派。

だから旭仔の最初のセリフが広東語で始まった時、安堵しました。そこからはもう何も迷わず映画の世界へ、阿飛正傳の物語の中へ、1960年の蒸し暑い香港へ。

大雨の夜、「旭仔」のアパートに来た張曼玉演じる「麗珍」の気配を察して感情的になる劉嘉玲演じる「咪咪」。元々「麗珍」のものだった室内履きを脱ぐよう「旭仔」に言われて

「ここにあるものは全部あたしのもの、何一つ渡さない」

 

とまくし立てるところは嘉玲の見せ場でとても好き。けれども静かな暗闇だった客席の台湾人たちから笑い声が上がって、一瞬現実に引き戻されました。

そして麗珍がドアを開けて現れ女同士が鉢合わせになると、今度は息を飲むような悲鳴が上がる。

可笑しいかな?前の女の存在に嫉妬して、自分のものだと喚き散らすのは。そんなに驚くことかな?声を聴きつけて冷静になった前の女が「先に帰るわ」と言いに来ることは。

初めて見た人はびっくりしたのかもしれないね…

だから楽しかった。何度も何度も観たはずの映画を、もう一度台北で見ることができて。びっくりしたり、笑ったり、息を飲んだりする人たちがいたことが嬉しかった。

阿飛正傳って結局何なの、何が言いたいのと消化不良になる人が多いのも知ってます。

Don’t think, Feel

としか言いようがない。

あの香港の春から夏の空気を、雨と湿度を、夜の木の濃さを、階段を降りる足音を、時計の針の音を。

鏡越しに映る女の顔、細い足首をとても低い位置から映す場面、銅鑼湾にあったQueens CafeのQの字のドアノブとボックス席。今はもう無いあの店に映画を観た後に行き、あの席に座りました。劉嘉玲の「あの女誰よ」からマッチ箱で片目を隠して張學友を翻弄する流れ。劉嘉玲の本領発揮、女優として唯一無二の魅力の大爆発だった。好きな場面です。彼女の広東語のセリフの言い回しが好きで、何度も繰り返し観て覚えました。

旭仔は死んだの、結局誰が好きだったの、最後の場面の梁朝偉は何だったのと聞かれることもあるし、言い出したらキリがないのだけれど、やっぱり阿飛正傳は語り合う映画ではないと思いました。

少なくとも私は、ここで書いたこと以外に思うこと、それに共感してもらいたいとは思わないし、反論される筋合いもないし、わかる奴だけわかればいい、自分で好きなように観ればいいと改めて思いました。

謎のまま、明確な答えなどないままエンディングに流れる梅艷芳の「是這樣的」を呆然と聴くまでが、阿飛正傳の「そういうこと」なのだと思います。

全部知ってどうするんだろう。誰と一緒に、どこでどんな環境で観ようと、これはとても個人的なところに入り込む映画なのだと。

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台湾・台北在住のライター&ロケーションコーディネーター。香港から猫を連れて移住してきました。活動範囲は台湾、香港、時々ベトナムなど。広東語、中国語を使います。プロフィール詳細 はこちらをご覧ください。仕事のご依頼やお問い合わせはコンタクトフォームからお願いします。