台北生活の日記

誤訳にざわめく界隈で、外国人から日本人に向けられた言葉のねじれを検証するのは誰の尊厳のため

サッカーフランス代表の選手のプライベートな動画で日本人の容姿や言語を嘲笑しただの、タイ人の俳優が「日本人の彼女が欲しい」とリップサービスだの

 

 

週末に発生した誤訳に関するふたつのざわめきは、どちらも外国人から日本人への「発言」でした。本当にそんなことを言うだろうか?なんだか直訳過ぎて不自然…そんな違和感を抱いた数時間後には「翻訳の間違い、誤訳ではないか」と検証と指摘がなされました。
思うところがあったので、ふたつのケースを記録しておきます。
※デンベレ/グリーズマンの件は、その後複数の方の解説やコメントを読み、7/7に追記しました。

 

サッカーフランス代表選手がすぐそばにいる日本人をフランス語で嘲笑?

サッカー関連のトピックをフォローしているひとは、目にしたかもしれないニュース。

 

「誤訳」が指摘され始めているので削除されるかもしれないから、出たニュースを下記に引用しておきます。

 

 

バルセロナに所属するフランス代表のFWウスマン・デンベレとFWアントワーヌ・グリーズマンが日本人を侮辱していると思われる動画が流出し、物議を醸しているようだ。イギリス紙『デイリー・メール』が2日に報じた。
動画は、デンベレとグリーズマンが滞在先のホテルでPES(プロ・エボリューション・サッカー/『ウイニングイレブン』の欧州版)をプレーする際、機器のセッティングのために現地のスタッフを部屋に呼んだときのもの。
撮影者と思われるデンベレは、日本語を話すスタッフ3名がテレビの前で作業している様子を見守りつつ、隣にいたグリーズマンに「醜い顔ばかりだ。PESをプレーするだけなのに。恥ずかしくないのか」と話したという。
さらに、作業するスタッフの顔をアップで撮影しつつ、「どんな後進国の言葉なんだ」、「お前の国は技術的に進んでいるんじゃないのか」などとも発言した模様。グリーズマンの言葉は聞き取れないが、デンベレと一緒に笑い合っている様子が映されていた。
今回の動画は今月2日に流出し、すぐにネット上で拡散され、人種差別として物議を醸している。グリーズマンの髪型から、過去の映像とみられており、オランダメディア『Voetbalzone』によると、バルセロナがプレシーズンツアーで日本を訪れた2019年夏に撮影された可能性があるようだ。
引用元:サッカーキング
「醜い顔ばかりだ」バルサのデンベレ&グリーズマンが日本人侮辱か…人種差別と物議

バルサの選手なんて言ったらそりゃああなた、選ばれし者たち、極東でおもてなしを受け鼻高々で、高慢ちきな態度を取ったのかなあ……と勝手なイメージを抱きそうになるけれど、彼らの発言部分の翻訳の仕方が妙に固いのが気になりました。直訳風というか、翻訳としてこなれていない、うまくない。いかにもオリジナルの言語を本当には分かっていない人が直訳しているような……そこがひっかかって、「本当にこんなこと言ったのかなあ?」と疑問に感じました。
さらに、ソースが「デイリー・メール」というところ。

 

 

私は英国で生活をしたことがないので実感としてはわからないけれど、Wikipediaはデイリー・メールの情報を原則として参照しないと決めた点も、踏まえたいかな……。Wikiを完全に信用するわけではないけれど。

 

そこへ、作家でミュージシャンの辻仁成氏が検証ブログをアップ。
流出したとされる動画を探し当て、言葉を書き起こし、状況と重ねて翻訳、説明しています。

 

辻さんのブログは削除されないと思うので、詳細は引用しません。ニュースで書かれている直訳の固くぎくしゃくした言葉ではなく、生き生きとした言葉に翻訳されている。そういう場面もあるだろうなと、拍子抜けするあっさりしていました。興味のある方は上記で確認を。
ただ、この翻訳、解釈が正しいのかどうかも私にはわからない。文章のプロだけあって説得力があるうえに、フランスに長年住む人の目線も重なっているから、信ぴょう性を感じてしまいます。
でも、信じる信じない、どんな媒体や書き手であっても「おっしゃる通り!」「さすがです!」「先生素晴らしい!」と丸呑みするのは、相手に対しても自分に対しても尊重に欠けるような気もして。

7月7日追加:デンベレとグリーズマンの流出動画に関する考察、解説、意見

両選手からコメントがでたようですが、デンベレはインスタのストーリー(24時間で消える前提)、これは流れろということ?謝罪のつもりないんじゃないかなあ。グリーズマンのはTwitter(残る前提)、でも両者とも、これが自分らの通常レベルで差別の意図はないと言っている印象です。

 

在日フランス人youtuber Bebechanさんの解説。参考になりました。
私は「確かにこの人のしたことはレベルが低く褒められたものではない。でも、こんなに大騒ぎするほどのことだった?」と疑問を持っていた。差別って、日本人だから食糧を分けないとか、日本人だから丸裸にして衆人の前に放り出せとか、日本人だからこの飛行機には乗せない、日本人は雇わないなど、生死や権利にかかわるレベルのことだと考えていたから。
けれどもフランス、欧州の人たちに「差別」はもっと近くて根深く、しかし絶対に一線を越えてはならない、それこそするかしないかで自分自身の尊厳に関わることなのだと認識を改めるきっかけになりました。

 

 

 

トルシエ元日本代表チーム監督の通訳をされていたフローラン・ダバディ氏のコメントをあわせて読むと、「これが俺らの通常運転」の根深さ(あるいは根腐れ)を感じます。日ごろ思っていること、その人のレベル(階級とは違う意味で)が滲み出てしまった。それが時空を超えてなぜか今、つまびらかになってしまったのか。

 

 

そして在仏の欧州/EU・国際関係の研究者・執筆家・編集者である今井佐緒里さんのコメント。モヤモヤとつかみどころのない迷路の中で見た、道しるべのようでした。
ただ解除や追放でお仕置き、見せしめで手打ちにしてモヤモヤした残骸を残すのではなく、その先に行くための考え方。

 

二人の謝罪文の内容は本心だと感じた。世の中には「やあ、汚ねえツラ」「よう、くそったれの息子」みたいな会話を、毎日行う世界に生きている人々がいる。それと、真の差別主義者の白人は、黒人の同国人と親友になったりしないものだ。これは一般論だが、二人と十分話して、何が問題の核心なのか見極めるほうがよいと思う。
デンベレは24歳。自分の地位にふさわしい言動を身につけてほしい。
あと、おかしな日本語訳は、無料機械翻訳が一役かっていると思う。それだけでは説明がつかない奇妙な仏文英訳の部分もあるのだが・・。

引用:https://news.yahoo.co.jp/profile/author/saorii/comments/posts/16255240374072.28a0.22275/

※2021年7月20日追記
フランス在住の田中晴子氏によるコラム。読みやすく、読みごたえがあり、ぐいぐい引き込まれ、揺さぶられる記事でした。

 

その少し前にもうひとつ起きていた、タイの人気俳優が日本のファンにあてた発言の誤訳騒動。これは「言ってもいないこと」に吹替えられた事例でした。

タイ人俳優「日本のファンに会いたい」発言が「日本人の彼女が欲しい」は 誤訳どころじゃないレベル

 

週末にもうひとつ起きていたのは、タイの人気俳優がタイ語で語ったメッセージに、誤った日本語字幕がつけられてしまった騒動でした。
動画はすでに削除されているのでここで誰と特定はしませんが、要約すると

・タイの人気俳優が歌をリリース、日本のレコード会社がPR動画を作成。

・インタビューは全てタイ語で行われ日本語字幕がついたが「日本のファンに会いたい」と発言した部分が「日本人の彼女が欲しい」と誤訳されていた。

というもの。
BLドラマに主演し、そのPR動画にはカップルを演じた相手役の男性俳優が隣にいる。自身のファッションブランドでは、6月のプライド月間にレインボーカラーのアイテムを展開。SNSやインタビューでも発言には慎重な人気俳優が、「恋人」ではなく対象を女性に限定して「彼女」が欲しいと言うかな?
日本のファンは日本と特定された嬉しさよりも、性別をわざわざ特定している点に、戸惑いを抱いたようです。これもファンやタイ語学習者だから気づく(何かがおかしい)(本当にそんなこと、言うのかな?)という違和感。でも、初めてその俳優を見た人は「ああ、こういうこというタイの人ね、はいはい」と刷り込まれてしまうかもしれません。

 

「日本人の彼女が欲しい」値踏みされた不快な記憶が蘇り、「そんなこと言う子?」と字幕に疑問


私がこの「日本人の彼女が欲しい」字幕に不快さと違和感を覚えたのは、LGBTがどうのという意識の高い話しではなく、過去の自分の経験からです。
アジアの様々な国で、「日本人の彼女が欲しい」という男性を実際に見て来ました。その口調や目つきに接するたびに、私自身が「彼らにとって都合の良い日本人女性」なのかどうか値踏みされているようで、不愉快でたまらなかったことを思い出したのです。
そんなこと言う子かなあ?
日本人だから、何人だから、国籍でくくられて持ち上げられるのも貶められるのも、全然フェアじゃないし、嬉しくもなんともない。都合のいい解釈でこっちを見ないで!と言いたくなるほど気持ちが悪いです。
そしてこれが誤訳であることを、私は台湾人のファンのツイートで知りました。彼女は動画を見てタイ語から日本語への字幕の間違いに気づき、それを中国語で丁寧に指摘・説明。複数の言語からのアプローチと解説だったので、より分かりやすかったのです。多数の指摘を受け、レコード会社はしばらくして動画を削除しました。アナウンスはありませんが、あれは誤訳だったということでしょう。

7月5日追記:誤訳が確認されたため修正、発売延期のニュースリリースがレコード会社からありました。

 

フランスのサッカー選手の言動については、何が真実か、今の時点で私にはわからないです。ただ、外国人が翻訳するとき、受け取り方や持っていきたい方向によって、違った解釈に変えられるというのは良く分かった。
翻訳、意訳に物言いがつき、誤訳に厳しい指摘がなされるのは、対象への興味や愛情、尊重があればこそだと今回の誤訳騒動で改めて思いました。「日本人」がターゲットだったから日本人がいきり立ったのではなく、「彼らは本当に、そんなことを言うだろうか?」
と率直に疑問を持ち、検証がなされたのでしょう。
言葉を大切にしていたら、アーティストやアスリートに限らず、誰かを尊重していたら、彼らの発言を駒にして、ちょっと刺激的に誤訳をつけてアクセス数や耳目を集めるために世に出そうとは、思わないです。
アクセス数を集めるために弄ばれるのは、有名人なら仕方ない?
遊ばれてるのは、下卑た誤訳や誤報を読まされる私達も同じかな。
愛情からの盲目的な擁護ではなく、フェアに事実を検証する冷静さこそが、真実を裏付ける力になる。それがよくわかる、ふたつのケースでした。

 

とはいえ、辻さんのブログの検証も「それにしたってあのフランス人が言っているのは酷いことだ」という意見もあって、私自身はそうかなあ、そんなにひどいこと言ってるかな?これくらいで傷ついていたら身が持ちませんぜ……と驚いた。でも、これくらい別にいいじゃん?と言われて驚き、傷つく気持ちもわかる。
ドイツでサッカーの試合の帰りに敵のサポーターから「×××くそったれの×××日本人女×××」とドイツ語で罵倒され、咄嗟に相手には理解できない言語で言い返したことを、私は恥じてもいないし、誇らしくも思っていないです。ただ、くだらない出来事だった。どこにでもクズみたいな奴はいる。黙って無視すれば良かったかもしれないけど、自分の誇りや安全は、自分で守らなければならないとあの時は思ったのかな。
何を言ったって100%、360度ぐるりと全てを満足、納得させられることなんてないし、それを目指すのだったら、いっそ何も言わず黙って生きていったほうが楽でしょうね。
でも、言ってもいないことを捻じ曲げて伝えられたら、それはきちんと説明しても良いと思います。誤訳を真に受けた人たちまで、ねじ曲がったままになってしまうから。誤訳を冷静に公平に検証して指摘できたら、ひとや言葉、職業、国籍、あらゆることへの尊重につながると思います。
何よりも、好きな人、尊重している人が何を言ったのか、正しく知りたい。

 

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台北在住のライター/コーディネーター。 長年暮らした香港から、猫を連れて台北へ移住しました。 台湾と香港に関する現地情報の執筆や、撮影手配などの仕事をしています。 |Instagram| |Tweitter| |Profile| |Contact|