台北生活の日記

「キーウ」とウクライナの人々が使う言葉で街の名を呼ぶ、敬意をもって。

台湾雑貨と称して簡体字を使うのは、わざとでも、いやがらせでもないと思います。知らなかっただけ。私も「キエフ」がロシア語由来とは知りませんでした。でも、知ったからには、ウクライナの首都をウクライナ語の読み方で「キーウ」と呼びます。人々の言葉と街に、敬意を表して。

 

 

日本の廉価な雑貨店で台湾をテーマにした食器が売られ、

「かわいー」

と人気を呼んだそうです。私はかれこれ2年以上日本へ行けていないし、その雑貨店のことを知りません。
台湾行きたいなー、シノワズリとか中華っぽいの、夜市のムード、キッチュ(死語かしら)でキャッチー(これも?)、とにかく
「かわいー」
と目を引かれ心奪われる人がいるのは、理解できます。
私だって台北のデパ地下でお寿司やおにぎりが並んでいたら、なんとなく見てしまう。スーパーに「維他奶」のパックが並んでいれば、「やあ久しぶり、香港の国民的飲料」と手に取ります。

長いこと足を踏み入れていない街の要素を感じたら、ふらふら引き寄せられてウインドウ越しに眺める。「なんか違う」と我に返ることもあれば、買ってかえることもある。旅行へ行けない間、何かを手にしてその土地へ思いをはせ、気を紛らわす。人それぞれで、好き好きで、いいじゃないか。この雑貨のデザインに関しては、それを必要とする市場があるならそれでいいんだとだけ思います。ファストファッションの店で、肋骨が見えそうな短い丈のセーターを見て首をひねっても、これを可愛いらしく生き生きと着こなす世代や感性の人が存在するのだろうと想像する。そんな感覚です。

 

この雑貨の件で眉間が狭まるのは、広告に簡体字が混ざっていたからでした。台湾夜市と称した案件に大陸の簡体字を使ったのは、わざとでも、いやがらせでもないのだろうと思います。
ネットで「中国語に翻訳」をしたら、先に大陸の簡体字が出てくる仕様のケースがほとんど。
しかし、台湾や香港で使われるのは繫體字/正體字です。
とはいっても、日ごろ中国語に接していない人が、台湾や香港では大陸で用いられる省略型の簡体字を使わないと、知らなくても不思議はありません。

よくあることですから。
黙ってやり過ごす人もいるでしょう。
こんなこと、一度や二度じゃないもの。
「かわいー」と喜んでいる人たちや、これをつくって世に出した人たちに「ちがう!」と言ったところで、永遠に終わらないいたちごっこか、疲れを知らないモグラ叩きのようで、対峙するのがむなしい。もう、声を出すのも面倒くさい。
怒りが沸かない。このうっすらとした情けなさや悲しみを、どう説明したらいいのか私はわからない。相手は悪気なく無邪気だからなおさら、説明するのがナンセンスで場違いなような気がして、あきらめて、口ごもる。
用いられる文字が異なることも知らない相手に、大陸で使われるものを台湾や香港で使われたら、複雑な思いを抱く人もいるんですよ、台湾が好きだ、香港が好きだっていうならさ、ちったあそういうことも調べてみて、気をまわしてくださいよ!と言って何になるのだろう。イタチとモグラは後から後から、無邪気に顔を出してくるでしょう。そのたびにびっくりして、悲しがったり口ごもるのも、喧嘩腰になる人を見るのもうんざり。

 

別に、中国語なんだからいいじゃない、もとは同じでしょ、通じるんでしょ。
そういう心持ちの日本人が大陸で身に着けた巻き舌の、たたきつけるようなものの言い方を台湾や香港でする横で、冷たい汗が背中に流れたことがありました。相手の表情がゆっくりと凍っていく。笑顔に見えるけれど、相手から醸し出される空気が冷えていくのがわかる。でも、「これが正しい中国語」と信じてしゃべっている本人たちは気づかない。いつもそう。急に無口に、無愛想になる相手に「ごめんなさい。彼らは悪気はないのです」と謝ったことが、何度かありました。「わかってる。気にしないわ」相手は必ず、礼儀としてそう答えます。でも、彼らの中で下がった体温や笑顔は、戻りませんでした。

 

怒られちゃってます?こわーい。台湾(もどき)雑貨かわいーっておもっただけなんですけど。おうちで台湾気分したかっただけなのに。

 

一般の消費者に向かって私が突然感情的に
「きしょくわりいんだよ!」
と叫んだところで、「知らなかった人たち」をただ怖がらせるだけで、何も伝わらないですよね。
台湾とか香港を贔屓にする人って、なんかコダワリ強くて面倒くさいし、こわあい、と妙な印象付けてしまうかもしれません。
うちは違うんですよ、次からはこっちでよろしくね!と優しくフレンドリーに、相手に忘れずにいてもらえるよう、わかりやすく伝えられたらいいのだけど。

 

たとえ話が見つからないからこのニュースを紹介するのが正しいのか、わかりません。でも、私はこのことを知らずにいて、衝撃を受けました。
「KIEV(キエフ)」は、ロシア語由来の呼び方でした。
知らなかった。恥ずかしい。でも、知ったからには、これからはウクライナの首都をウクライナ語の読み方で「KYIV(キーウ)」と呼びたいと思います。これが私にできるささやかな、けれども精いっぱいの敬意の表しかたです。

 

 

もしこの先、台湾とか香港の人と文字や声でコンタクトをする機会があったら、翻訳で検索するとき「繁ってる、画数が多いほう」を探してくれたらいいなと願います。
もし台湾や香港に興味や好意を抱いてくれたのなら、現地の人たちが誇りをもって使う言葉に、敬意も持ってもらえることを願います。

 

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mimi
台北在住のライター/コーディネーター。 長年暮らした香港から、猫を連れて台北へ移住しました。 台湾と香港に関する現地情報の執筆や、撮影手配などの仕事をしています。 |Instagram| |Tweitter| |Profile| |Contact|