永康街の路地を入っていくと、素敵な住宅をいくつも見かける。
古くて雰囲気のあるアパートや、新築の重厚な高級マンション。
(どんな人が住んでいるのかしら)
(良いなあ、素敵だなあ)
(でも、お高いんでしょ?)
そんな風に思いをめぐらしながら歩いていた時、こぢんまりしたカフェのある古いアパートの上階のベランダに、赤いブラジャーが干してあるのを目にした。
(おお、観光客も多いエリアでこんなにも堂々と)
と、ちょっと驚いた。
もし私が人様の部屋の軒先にぶら下がる洗濯物を写真に撮り
「こんなの見つけた。赤はないだろう、赤は」
などとSNSにアップしたら。
「表に下着を干すなんて馬鹿ですね!」
「お行儀悪いですね!」
とレスがつくかもしれない。
建物の様子から場所を特定されて、
「その家知ってる、前にもこんなの干してた」
と、「自分の気づき」を披露する人もいるかもしれない。
でもきっと、大多数の人が黙ってスルーするんじゃないかな。
そして、(ひとの洗濯物をわざわざ写真に撮ってあげつらうなんて、下品だわー)と、私や、面白がってレスをつけた人を軽蔑するだろう。
洗濯ものを通りすがりの人が見えるところに干すのは、SNSに自分の意見や生活をアップすることに似ていると思った。
表に干しても差し支えなさそうなシャツや部屋着、タオルなどをからも、その部屋に住む人の家族構成や好み、スポーツをする人なのか、どのクラブを応援しているのかはわかる。洗ったワイシャツを綺麗に並べている窓を見ると、自分でアイロンがけもする、清潔で慎ましくきちんとした人なのだろうなと想像がつく。年齢や性別、その人となりにも目星がついてしまうかもしれない。
私が干している洗濯物をチェックしては、匿名の「街の掲示板」であげつらう人たちがいたら、暇なんだなと思う。「今日はこんなの干してた」「安い服着てる」「センス悪っ」「クリーニング代けちってるんだね」などと笑われていたらちょっと癪だ。なんとなく気持ちが悪いから、外に干すのは止めるかかもしれない。でも、洗濯ものは風で乾かすのが気持ち良い。煽ってみるべと、ド派手な洗濯物を並べたりはしない。表に向かって並べたものが人目につき、感想を持たれるのは仕方ない。
自分の持ち物や好みを笑われるのは、わりとどうでもいいと思う。怖いなと思うのは、目についたベランダを見に来ては匿名であげつらい報告しあって笑う誰かと、街中ですれ違って言葉を交わしているかもしれないこと。もしかしたら、知っている人かもしれない。それはうすら寒い。
春名風花さんがTwitterで誹謗中傷を受け書き込み主に起こした訴訟、被告が示談金支払いを命じられたニュースを今日知った。
ツイッターに虚偽の内容を投稿され名誉を傷つけられたとして、女優の春名風花さんと春名さんの母親が、書き込み主に慰謝料など265万4000円の支払いを求めた訴訟。被告側が春名さん側に示談金計315万4000円を支払う内容で示談しました。https://t.co/K03nwjNe4i
— 弁護士ドットコムニュース (@bengo4topics) July 20, 2020
著名人だけでなく、いわゆるインフルエンサー、ブロガー、一般の方でも、誹謗中傷と闘っている人は多い。今年になってからは、みちかげさん(@WvcvAeIF0j12ReB)という方がご自身で起こした訴訟の経緯に関する一連のTLを、興味深く読んだ。
子が寝たので1日前倒して発信者情報開示請求(ネットの誹謗中傷している相手を特定するための請求)した話をツイートします。このツイートにツリーしますので気長にお待ちください。
— みちかげ (@WvcvAeIF0j12ReB) February 15, 2020
みちかげさんが弁護士を通じて情報開示を請求すると、誹謗中傷の書き込み主は複数いて、そのうちの何人かは、みちかげさんの友人や知人だったそう。
書かれた内容にもショックを受けただろうけれど、それが信頼していた人や知人だったのは、とても悲しい、やりきれない事実だったのではないか……。
みちかげさんは、同じように悩んでいる人たちの参考になるようにと、訴訟の手順などについてブログをまとめるといっている。数ヶ月新たな書き込みがないのは、別の案件が進んでいて、書けない状況なのだろうか。
私は過去に香港で、傷害事件に巻き込まれてしまったことがある。
その時私が気にしたのは、「犯人は私個人を特定して狙ったのか」だった。誰かに恨まれて、ヒットマンを飛ばすほど憎まれていたのだとしたら?誰が?どうして?傷を負わされるほど、私は誰かを傷つけてしまったのだろうか?
幸いといってはおかしいけれど、私が被害にあったのは偶然だった。偶然にしても「なんで私がこんな目に」と落ち込まずに済んだのは、事件後にサポートしてくれた人たちのおかげだった。あれこれ言わず、ちょっと泣いて、でも冷静に、そばにいて助けてくれた人たち。
被害にあった私に落ち度があると罵倒した人、記念になるね!と言ってきた人もいる。
自分が正しいと信じて他人に投げつける言葉、私の落ち度を決して責めず、助けるためにとってくれた行動。それは私の目の前で、あまりにも対象的に、ひとの心根の善悪を浮き彫りにした。
オンラインで匿名やハンドルネームを使い、誹謗中傷すれすれに物を言い、同類のお仲間と下卑た笑い方をしている人たちがいる。彼らの言動はきっと、彼らの世界では正しい。そして、その言動に賛同せず、敢えてたしなめもせず、沈黙する人々の顔や姿は、彼らには見えない。オフラインの人と街のネットワークが、ハンドルネームのあなたがどこの誰で、何をしている人か、特定していることも知らない。彼らが彼らの世界観や常識を持ってオンラインで垂れ流す誹謗や中傷、嫌みや嘲笑も、その常識を良しとはしない人々からは敬遠される。オフラインで自分に関するどんな注意喚起が流れているかも、彼らは多分知らないだろう。
今日も洗濯物をベランダにかけた。私のベランダを目にとめた人にとって見苦しくないように気を付ける。洗ってから風と日差しで乾いた服やタオルは、気持ちよく身に着けたい。
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