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五月の約束、音楽の力。五月天に初めてインタビューをしてからのこと

台湾エッセイ
「座ったら?」と初対面の五月天に

毎年、5月には香港でコンサートを開くことが約束になっている五月天。今年も紅館こと香港コロシアムで10days、チケットはあっという間に完売になったと聞きました。

私が初めて彼らのライブを観たのも紅館、彼らが所属していた、ロックレコードのアーティスト大集合のイベントでした。でも、当時私は別の歌手目当てだったので、五月天のことは「台湾の子達か、元気があって可愛いね」と好印象を持っただけ。

その後、友達が五月天のファンになり、九龍サイドの旺角のパブでライブをすると知って、当時ロックレコード香港にいた友人にチケットを取ってもらいました。当日、入口で彼を呼び出すと、「さ、入って」とバックステージへ案内されたので、私たちは慌ててしまい

「いやいや、だめでしょ入っちゃ」

と後ずさりしたけれど

「なんでダメなの?」

いかにも香港人らしい切り返し。当時はまだ、香港で五月天のガードはゆったりしていたのですね。

 

五月天のメンバーはまだ来ておらず、ロックレコードを中心に、スタッフはみんな寛いでいました。知り合いに挨拶をしたり、彼らと一緒にソファに座ったものの、友達は緊張のあまり顔面蒼白。ここは私がリラックスさせないと?と思い

「まあまあ、吞みなよ」

ライブ会場のパブから差し入れられたビールを勧めたりしているうちに、五月天のメンバーが現れました。

誰が誰なんだかちょっとしたカオスになっている部屋の中に入り、戸惑った様子の彼らに、香港のスタッフが私たちを「彼女たちは日本人。ライブを観に来たんだよ」と紹介すると

「日本の方ですか」

怪獣と冠佑が笑顔で言ってくれたことを覚えています。

「はい」

と答えてもまだ、彼らは立ったまま。スタッフも慌ただしく動き出して彼らに構わないので、私は申し訳なくなってしまい

「あの、座ったら?どうぞ」

つたない中国語で言うと、ようやく彼らもソファに腰を下ろしたのです。

 

(この人たち台湾ですごく人気あるんだよね?随分礼儀正しいな。遠慮深いのね台湾の人って。)

 

それが彼らとの、ファーストコンタクトでした。

「あなたたちなら出来る。紅館も、武道館も」小さなライブハウスの楽屋で伝えたこと

オールスタンディングのライブの後、あまりの混乱にスタッフに救けだされるような格好で、再びバックステージへ戻りました。確か、あのパブのキャパシティは150人前後だったと思います。でも、もうこんな狭いところでは、五月天のパワーも、ファンの興奮も収まりきらないでしょう。

 

「素晴らしかったです。あなたたちは香港の紅館でコンサートが出来る。日本武道館でも、きっと」

 

ライブ後の戻ってきたメンバーに挨拶をして、そう伝えました。

 

「本当にそう思う?」

瑪莎が目を丸くして、嬉しそうに答えてくれたこと。

「できるかな」

怪獣も微笑んでから、ちょっと考えるように、思慮深くつぶやいたこと。

 

今思えば、アーティスト本人に向かって何を偉そうなことをと、冷や汗がでます。台湾ではすでにスタジアムクラスのライブをしていたのだし、もしかしたら、もう当時から香港での計画が進んでいたかもしれない。でも、あの時私は、その夜に目の当たりにした五月天のパワーが絶対であること、確信を持ったことを、率直に伝えずにはいられなかった。そして、一観客が「紅館、武道館」と言ったことに彼らが驚き、夢見るような、何かを考える表情になったことも忘れられません。

音楽の力。ライブは観る人にとって一度きりかもしれないから、いつも全力

その後、ロックレコード香港の友達から「日本の媒体に五月天を紹介する方法はないかなあ」と相談されて、日本の友人が編集に携わっていたアジアのエンターテイメント雑誌「Free Access Asia」編集部に伝えてみました。すると編集長は即決、「取材よろしくお願いします」「え、私?」

なんやかんやで話がまとまり、五月天が再度香港に来る予定にあわせて時間を作ってもらい、取材をすることになりました。当時の私は香港在住、広東語は話せましたが、中国語は覚束ない状態。占い雑誌に連載は持っていたものの、アーティスト取材はこれが初めてです。しかも五人まとめて、中国語・・・

緊張のあまり取材終了後に体調を崩し、一日寝込みました。

でも、五月天へのインタビューはとても楽しいものでした。どんなくだらない質問も真面目に考えて答えてくれたし、私のつたない中国語に真摯に耳を傾け、分かりやすく話してくれる。五人が仲良く、笑い声が絶えない現場。彼らの音楽に対する情熱、人柄に触れて、ますます五月天に対する興味が強まりました。

 

「音楽的力量(音楽の力)を信じてる」と、石頭が落ち着いた穏やかな声で話してくれたこと。

「僕たちにとっては何回目でも、ライブを観る人にとって、それは一度きりのチャンスかもしれない。だから、いつも全力でやる」口数が多くはなかった阿信が、きっぱりと言ったこと。

どうすれば、彼らの言葉をきちんと日本のファンへ伝えられるだろうか?そのことばかりを考えたのと、己の中国語の下手さに打ちひしがれて、知恵熱と脂汗に押しつぶされた初取材でした。

果たせないままの、五月の約束。

それから何度か取材やライブレポートなどを書いているうちに、「音楽の力」が何かを与えてくれたのか、私は五月天の曲をモチーフにした小説を書き始めました。創作をする人は時々、「何かが降りて来て手が勝手に動く」と言うけれど、当時の私にも「音楽の神様」が傍にいたようで、何かにとり憑かれていたように、五月天のメロディと歌詞に乗せた物語があふれ出てきていました。

 

そして日本語で書き上げたものを、台湾の翻訳会社に依頼して中国語に直し、企画書とともに台湾の出版社をいくつも回ってみたものの、「小説は難しい」と相手にされず。ダメもとで香港の出版社にコンタクトをすると、担当者は

「小説の出版は難しいよ。君は自分自身のことを書いたら?日本人の視点で、香港での暮らしのことを」

そちらの話がまとまって、エッセイ當抹茶Latte遇上鴛鴦を出版することになったのです。

それはそれで嬉しい結果でした。でも、私の本来の願いにはたどり着いていません。

香港コロシアムでのライブを成功させた五月天の打ち上げパーティ、取材がてら入った時に、私は阿信と話をする機会がありました。

彼が書く歌詞や文章からもわかる通り、阿信は本をよく読んでいて、時々小説の話もしてくれました。だから、私も書いてみたこと、五月天の音楽の力が私に書かせてくれたことを伝えておきたいと思い、中文に直した原稿の束を渡すと

 

「本になるの?」

「したいです。努力します」

 

傍にいたマネージャーが原稿の束を受け取ろうとしても、阿信は自分で持っていたいと、そのまま抱えていてくれました。

 

なのに私はまだ、その約束を果たせていません。だから、台北に移って来ても、彼らに取材申し込みもしていません。一度ある場所で遭遇したけれど、挨拶しにいくこともできなかった。約束を果たしていないのに、合わせる顔が無いのです。

 

あの頃、香港の人の多さ、広東語の騒がしさ、大陸から押し寄せる日帰り買い物客に土足で日常を蹴散らされる日々にじっと黙って堪えるためには、イヤフォンで耳を塞ぐしかありませんでした。街を歩きながら、電車やバスに揺られながら、どんな時も五月天ばかり聴いていた。

 

あの当時の崩壊しそうな気持を持ちこたえられたのも、台湾に移り住むための煩雑な手続きが出来たのも、原稿の翻訳を頼んだ女性と台北で再会して友達になれたことも、五月天の音楽が力をくれたのだと、今になって思います。

彼らの佇まいや紡ぎだす言葉、日本人への接し方、どんなに有名になっても偉ぶることのなく、まだ夢を見ている、憧れを持っている様子。コンサート会場で「帰り道わかる?バイクで送りましょうか」と声をかけてくれた女の子たち。

五月天は、私にとって台湾への搭乗口。とても大きく、重要なきっかけでした。

 

※初出:「Taisuki.cafe

※2017年8月でTaisuki.Cafeの更新が停止したため、許可を得て自サイトに掲載しています。

 

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台湾・台北在住のライター&ロケーションコーディネーター。香港から猫を連れて移住してきました。活動範囲は台湾、香港、時々ベトナムなど。広東語、中国語を使います。プロフィール詳細 はこちらをご覧ください。仕事のご依頼やお問い合わせはコンタクトフォームからお願いします。