台湾女子の必殺技?あまいしゃべり方に衝撃を受けた日
香港にいた頃、台湾のある芸能人に夢中になってしまいました。
幸運にも私の友達がその芸能人の香港エリアでの活動をサポートしていたので、サインを貰ったりイベント情報を聞いたりして喜んでいたある日、友達は、その芸能人のガールフレンドのことも教えてくれました。
彼女は芸能人ではないけれど、公式の場にパートナーとして出席していたので、顔と名前は雑誌などで見て知っています。でも、動く様子や、どんな声で話すのかは知りませんでした。
「しゃべり方がすごいんだよ」
「どんな風に?」
『吃飽了~、我不要~~』
京劇のように甲高く、甘ったるい口調の中国語。友達はしなまで作って再現するから笑ってしまったけれど、ちょっと二の腕のあたりをさすりたくなるような、寒気も感じました。
「彼って、そんなぶりっこと付き合ってるの・・・」
「そう。だからmimiにはチャンスないよ」
「キー」
友達は、やんわりと釘を刺してくれたのだと思います。憧れの人とちょっと伝手が出来たからって、変な夢はみないでね、と。
「吃飽了、我不要」
お腹いっぱい、もう要りません。彼女は食事の場で、気を使ったスタッフに勧められ、これ以上食べられないと断ったのでしょう。たったそれだけのことなのに、香港人男性が物真似をして聞かせてくれ、私にも「台湾人女子恐るべし」と強い印象が残るほど、その口調は衝撃的でした。
「台湾女子のしゃべり方?おおう」と香港女子
眉間にしわを寄せ、肩をすくめて身震いする香港女子は、結構多くいます。
「あの人たちはね、甘えたしゃべり方がうまいのよ。ぞっとするわ」
と、憎々しげにバッサリ。
台湾人同士でも、甘すぎる女性の口調を、息を止めるようにじっと我慢していることはありますね。台北のダンス教室で「もう耐えられない、あの人のしゃべり方は聞いていられない」とはっきり言って、その場を離れていく人もいました。
そして、台湾女子に言わせると
「香港の人は怒ってるみたいな話し方で、ちょっと怖い」と台湾女子
となります。
私も香港での最初の頃は、怒られてるのか、喧嘩なのかと怯えることがありました。でも実際は「久しぶりじゃない、何してたのよ?」と親しみを込めた挨拶だったり、「ランチは何食べる?あの店は嫌よ、飽きちゃった」など、率直な話し方をしているだけの場合がほとんど。
広東語には、「バッ」や「チェッ」など國語にはない破裂音がある上に、國語よりも細かく分かれる声調は、大きな声で発音しないと区別がつきません。流れるような國語に比べたら、広東語は日常会話でさえ事件なの?喧嘩なの?と思われてしまうかもしれませんね。
「日本人は口先だけで喋ってるから発音がだめなんだ。腹から声を出しなさい!」
と、広東語の先生に鳩尾へパンチを喰らいました。國語を習う時に、そんなボディアタックを受けたことはありません。
そうやって腹に力を入れて広東語を喋っていた私は、あまく高い声で「お腹いっぱいなの」と言う「台湾の彼女」がどんな人なのか、ずっと気になっていました。
ニューヨークの街で、本人にばったり遭遇。あまい口調は本物だった
その日、私は遊びに行ったニューヨークで、Toccaの本店を目指し、ひとりで歩いていました。街並みも、店やアパートの窓も珍しくて楽しくて、ひとつひとつ眺めながら目的地に向かっている時、シューズショップのガラスの向こうに、アジア人女性の横顔を見つけました。
この街でアジア人なんて、珍しくもない。でも、その女性を見た瞬間、考えるよりも心臓がどきっと大きく脈打って、私は足を停めたのです。
彼女さん?
雑誌で見たことがある、例のあの、あまい口調の彼女のような気がする。
どうしましょう?
いきなり話しかけるなんて失礼かもしれない、自分の彼氏のファンから声をかけられるなんて、攻撃されるんじゃないかと、怖がらせてしまうかもしれない。迷ったけれど、でも、今を逃したら、この先本人と話すチャンスなんてもうない。幸い彼女もひとりでいたので、店を出てきたところで思い切って彼女の名前を呼び、話しかけてみました。
すると彼女は一瞬目を見開いてから、
「あなたはもしかしたら、mimiさん?」
あまく、高い声でゆっくりと言いながら、笑顔と両手を広げた彼女にハグされて、なんでなんで?!と私は呆然。
「彼から聞いていたの、日本人のファンがいるんだよって」
まるで警戒することなく、名前や噂を聞いた人に偶然会ってただ喜ぶ無防備さ。友達が真似をした以上にゆったりとしたあまい声で、彼女は私の手を握って言いました。
可愛い人だなあ、こんな声で話す人がいるんだなあ。
もし彼女がただのぶりっこで甘えた人だったら、ひとりでニューヨークで買い物なんかしないだろうし、異国の地でいきなり知らない人に話しかけられて、穏やかな対応もできないと思いました。あまさには、しっかりした芯があるから良いんだね。
ハグした流れで手をつないだままお喋りをして、引き止めちゃってごめんなさいね、またどこかで会いましょうと手を振って別れた後も、彼女の話し方、佇まいは、あまさだけではない、心地よい後味を私に残してくれました。