台北生活

台湾で、ねこはバイクやバナナで眠る

近所の市場に数軒、果物屋があります。

本当なら通りの向こうの店の方が品ぞろえも良く、鮮度も高い。でも、私はこの店で買い物をせずにはいられません。お店のおかみさんらしき人が店の奥に入っていく後を飛び跳ねるようについていく猫たちをみると、

(この子たちの餌代の助けになるなら…)

萎びはじめたドラゴンフルーツを震える手で選び、ひとつふたつ買ってしまうのです。

ある日その店の奥に入ってみると、ケースの中でまだ大人になりきっていない猫が二匹、台湾バナナを枕に眠っていました。

 

おうふ。

変な声を出して後ずさり、もう一度そっと近づいて覗き込みました。真夏の果物屋、ひんやりしたバナナに絡まってのお昼寝は、きっと心地よいのでしょう。まるで夢のようだな。バナナと仔猫て、天国かここは。

ロシアのパペットアニメ「チェブラーシカ」では、物語の最初に果物屋のおじさんがオレンジの箱の蓋を開け、オレンジの中でぐっすり眠っているチェブラーシカを発見しました。映画の主人公は登場シーンが重要だから、この場面にはチェブラーシカの可愛さ、人の素朴さ、生き物と果物の不思議さと愛しさが凝縮されていて、素晴らしかったと思います。あの場面にも、可愛さに鼻息が荒くなりましたが、仔猫が二匹、しかも台湾バナナで昼寝の様子は、時を忘れて見入ってしまいました。おうふニヤニヤ。日本でいう「猫の下僕」の同類を、台湾では「猫奴」と呼ぶのだそうです。

ブティックや美容院に猫がいたり、食べ物と猫が一緒に箱に入っているなんて、受け入れがたいと感じる人もいるでしょう。猫アレルギーの方には辛いだろうし、動物がうろうろしてるなんてちょっとゆるすぎるんじゃない、と疑問に思われるかもしれない。

 

でも私は、初めて台北旅行をした時、スーツ姿で地面に転がり、満面の笑みで、我を忘れた状態で車の下に入り込んだ子猫と戯れる若いサラリーマンを見かけて

(台湾、いいところだなあ)

と思ったの。

ここ数年、日本へ一時帰国をする度に、何度も電車の遅延に遭遇します。人身事故や喧嘩などのトラブルによる遅れの標示。発車しない車内で、もう慣れたかのように表情一つ変えない人たち。苛立ちを見せ「迷惑だよね」と吐き捨てる人たちが、私は怖い。以前の東京で、人身事故による電車の遅延は、こんなに頻繁ではなかったはず。きちんとしなければ、電車を止めるほど追い詰めなければ、美しい国、おもてなしの国は維持できないのかな。電車なんか遅延して当たり前じゃないか。どうして一分遅れただけでお詫びのアナウンスが流れるんだろう。こんなにきっちり時刻表通りなのは、日本だけじゃないのか。きっちりしていると言われるドイツだって、電車は事故以外の理由で遅延が多発するのに・・・。

日本が好き、礼儀正しい、綺麗、旅行に行きたいと外国人に言われるたびに、でも、人が電車を止めますと心の中で思う。東京とその近郊に限った話なのかもしれないけれど。

美容院の人懐こい猫に、時々遊んでもらいます。夢中になって我を忘れ、タガの外れた己の笑い顔がドアガラスに映っていることに気づくとちょっと恥ずかしいけれど、お店の人もニコニコしています。

夕暮れの道端に停めたバイクを挟むように立ち、若いカップルが微笑みながら何かを話していました。バイクで彼女を家まで送ってきたものの、離れがたくておしゃべりしてるのかな?と思ったら、バイクのシートにはデンと寝そべっている猫が。

「すみません、どいてもらえませんか?」

「もしもし、起きてください」

ふたりは丁寧な口調で話しかけながら、笑顔で猫を撫でていました。

 

 

猫は自分で選んだ場所で眠る。人はそれを受け容れ、そっとしておき、時々撫でさせてもらう。きちんとしすぎない分だけ、受け容れる余裕にもなる。それが台湾のふっくらした良さだと、猫たちの顔つきを見れば「猫奴」にはわかります。

 

※初出「Taisuki.cafe

※2017年8月でTaisuki.Cafeの更新が停止したため、許可を得て自サイトに掲載しています。

ABOUT ME
mimi
ライター/コーディネーター。長年暮らした香港から、猫を連れて台北へ移住しました。台湾、香港、ベトナムなどで活動をしています。 詳細と連絡先はこちらをご覧ください。