2025年の訪日外国人数は、年間を通じて史上初となる4000万人の大台突破が確実視されている。連日のようにインバウンド特需の恩恵が報じられる一方で、足元の数字を細かく分析すると思わぬ死角も浮かび上がる。例えば、日中関係の悪化を背景に11月の訪日中国人数は単月で56万人と今年最少を記録した。中国政府が日本行きの航空路線の削減を要請している事実を踏まえれば、この先数カ月でさらに激減していく公算が大きい。特定の客層やインバウンド頼みの姿勢を続ける観光業界は、果たしてこのままで生き残れるのだろうか。
ターゲット依存が招いた衰退の象徴 関東屈指の歴史ある温泉街として知られる鬼怒川温泉は、その問いに対するひとつの厳しい答えを提示している。バブル期に数多くの大型ホテルや旅館が林立したこの地は、1993年に年間宿泊客数341万人というピークを迎えた。ところが2024年の客数は約150万人まで落ち込んでいる。経営破綻して廃墟と化した施設が社会問題化する一方で、皮肉なことにYouTubeなどではそれらへの潜入動画が関心を集める始末だ。
11月の週末、北千住駅から東武特急スペーシアに揺られること約2時間で鬼怒川温泉駅に降り立った。駅前の転車台ではちょうどSL大樹の方向転換が行われており、雨天にもかかわらずカメラを構える大勢の観光客で熱気に包まれていた。周辺のみやげ物屋も活気づいている。そこから北へ向かって鬼怒川沿いを歩くと、徒歩3分ほどで「日光きぬ川ホテル三日月」や「鬼怒川金谷ホテル」といった人気施設が姿を現す。さらに北上すれば伊東園ホテルや大江戸温泉物語など有名チェーンの看板も目に入り、くろがね橋付近までは現役の宿が多く観光客の姿もちらほらと見かけた。
しかし、そこから先には物悲しい廃墟群が次々と目に飛び込んでくる異様な光景が広がっていた。コロナ禍を経て再びインバウンド需要に沸く全国の観光地にとって、ターゲットを極端に絞り込んだ巨大ビジネスがいかに脆いか、この廃墟群は無言の警告を発しているように思えてならない。
都市の喧騒から逃れる新たな需要 過去の大量送客モデルが限界を露呈する中、海外からの旅行者が日本の宿泊施設に求める価値観も確実に変化している。20年近くニューヨークで暮らすある旅行者は、今年の3月に東京を訪れた。圧倒的なエネルギーに満ちた東京の街を堪能したいと望む反面、タイムズスクエアのような過密状態の場所に滞在するのは避けたいと考えていたという。新宿の眩しいネオン街を歩き回ったり、渋谷のスクランブル交差点の人波に揉まれたりするのは刺激的だが、時差ボケに悩まされながら心身を休める場所としては相応しくない。
そうした現代の旅行者の繊細なニーズを的確に捉えているのが、赤坂に新たに開業した「1 Hotel Tokyo」だ。皇居にもほど近く、活気ある飲食店と高層オフィスビルが混在しながらも比較的落ち着いた空気が漂うこのエリアは、都会の利便性と静寂を求める滞在客にとって理想的な立地といえる。
環境配慮と居住性を両立する次世代の滞在体験 日本初上陸となるこのホテルブランドは、環境への配慮と心身の癒やしを前面に打ち出している。赤坂トラストタワーの38階から43階に位置する全211室のホテル内には豊かな緑の壁が配され、国内最高水準の環境性能評価であるCASBEE Sランクを取得したサステナブルな設計が施されている。ブランドの代名詞でもあるバンフォード・ウェルネス・スパも完備しており、都会的な外観とオアシスのような館内とのコントラストは、ウェストハリウッドやセントラルパークといった他の拠点以上に際立っている。
緑に覆われた1階のロビーに足を踏み入れた瞬間から、その心地よさは始まる。上階のチェックインカウンターでは、日本の伝統的なおもてなしである温かいおしぼりが提供される。客室は風化させた木材のアクセントや、石とクリーム色の温かみのある色調でまとめられ、肩の力が自然と抜ける空間だ。東京のホテルは立地の良さと引き換えに手狭であることが多いが、ここは違う。「ガーデン・ツー・クイーン」と名付けられた客室には2台のベッドだけでなく、フルサイズのソファや小さなダイニングテーブルまで備わっている。独立したバスタブエリアを備えたシャワールームや、暖房便座付きのTOTO製トイレといった充実の設備を持ちながら、1泊799ドルからという価格設定は、都心エリアの5つ星ホテルとしては十分に競争力がある。
共有スペースもくつろぎに満ちている。ロビーにはふかふかのソファや特大のチェアが点在し、眼下に広がる街のパノラマを楽しむのに最適だ。自然光が降り注ぐオールデイダイニング「NiNi」では、和洋の豊富なメニューが並ぶ朝食ビュッフェが宿泊客の人気を集めている。特に、ローストしたみかんとシャンティクリームを添えたスフレのようなフレンチトーストは、滞在の記憶に深く刻まれる一品として評価が高い。