台北生活の日記

「台湾です」東京オリンピック開会式で思い出す、「中華台北」梅のエンブレムしか見つけられなかった北京の人たちのこと。

東京オリンピック2020開会式。台湾から参加した「中華台北」チームを「台湾です」とNHKのアナウンサーが呼び、台湾でも反響がありました。入場順をめぐって裏でどつき合いなど起きていないか心配しながらオリンピックや国際大会で「チャイニーズタイペイ」の梅のエンブレムを見て思い出す、真面目に探しても見つけられなかった北京の人たちのこと。

 

 

「オリンピック、今日からなんですか?」
2021年7月23日の夕方、台湾人の女の子に聞き返されて
「あと1時間ほどで始まります」
と答えました。
台湾でも、東京へのチャーター機で選手にビジネスクラスを手配できなかったとニュースになりました。バドミントンの女王戴資穎が宿泊しているのが口コミレベルで星3つのビジネスホテルとわかると「世界ランク1位の彼女をそんなクラスのホテルに泊めるわけにはいかない」と台湾の人々がそのホテルの口コミと星の数を大量に投稿して星4つに変えてしまったり、台湾でも東京オリンピックが話題になっていると思ったんだけどな。
「みみさんがオリンピックに緊張するのは、母国日本で開催するから?それとも日本人はスポーツが好きなんでしょうか。台湾人はそれほど興味がないんですよ」
そう教えられて、それが多くの台湾の人たちの反応なのかもしれないと思いました。

オリンピック開会式実況中継、台湾では公視がCMなしで快適

警戒レベル3が持続している台湾では、どこかに集まって一緒にテレビ観戦をするわけにもいきません。
私は友人たちとカメラ通話をつないで、台北の自宅で東京オリンピックの開会式を見守りました。
始まる前は各々用意した飲み物のラベルやボトルを見せ合い、おつまみを羨ましがったり、どのチャンネルで見るかを開始5分前に確認したり。のんきな感じなのも、リモート飲み・リモート観戦ならではの気楽さ、楽しさです。
私は中華電信MODのELTAで、友人たちは東森チャンネルなどで選手入場を見ていたのですが、いわゆる民放だったので、途中にCMが入ってきました。
「こういう時こそ、お得意の画面L字型カットにして全部みせてよー」
「CMを入れると空気読め!って好感度下がるわね、怖い怖い」
とブーイングし、友達の「公視なら公共放送だからCMないかも?」の鶴の一声で、みんなチャンネルを移動。手話通訳付き、CMなしの穏やかな公視の画面で、開幕式を最後まで途切れることなく見届けることができました。

バドミントン世界ランク1位の戴資穎が出演する台湾UberEatsのCMはとぼけたユーモアがあって面白いです。

 

 

あいうえお順の入場、中華台北は「た行い段」で心配になる

入場順リストをあらかじめ見ていなかったので、始まってから「どうやら順番はアルファベットではなく、あいうえおだね」と気づいた私達。「あ行い段」のあたりで「こことここ、繋がっちゃってるね。アルファベットでも繋がるけど、大丈夫なのかな」「スタンバイ中に、裏でどつき合ったりしてないかしら」と余計な心配を始めました。
「韓国こないね。大韓民国なのかな?」
「ドイツもジャーマニーじゃなく、た行で来るんだね」
それはいいけど「た行い段」の「ち」、もっといえば「ちゃ」と「ちゅ」のグループはどうなるのだろう。私達の心配はそこに移りました。
台湾からの選手団・チャイニーズタイペイ、中華台北はスタンバイ中に大所帯の「た行い段」に裏でどつかれたりしていないか?数の多さに任せて、威嚇されたり舎弟扱いされたりしてはいないだろうか……。

悪気なく、台湾を調べても見つけることができない人たちがいる

https://twitter.com/NOCTPE/status/1412977742203613187

中華台北の梅のエンブレムは、オリンピック等国際大会の際に用いられるシンボルです。これは日ごろ、台湾を気にかけている人たちが見慣れた中華民国の国旗とは異なるもの。これはこれで、今の台湾を代表するのかというとそれでいいのか、難しいと思うけれど。

 

私が香港にいた頃、北京の本社が出してくるものに何度もひっくり返った昔話をします。
当時私は、ある会社の香港情報発信サイトの立ち上げに関わっていました。製作するのは、その会社の本社・北京のスタッフ。日本語が流暢で賢く穏やかな、素晴らしいスタッフたちでした。でも、彼らが作って来た情報ページは「九龍」を「九龙」とするなど、香港内の地名や固有名詞の表記は全て簡体字。私は彼らの無邪気さ、自分基準を1ミリも疑わない天真爛漫さに震えながら「日本人向けの香港情報のサイトで簡体字を使っても、読める人はほとんどいません。日本語を基準に、全て直してください」と、辛抱強く説明しました。
しかし各国を表す国旗で台湾には例の梅の花、中華台北のオリンピックエンブレムをあてがって作ってきたのには、「どこまでふざければ気がすむのかなあっ?!」と白目をむいてしまった。
でも、真面目な北京のスタッフとよくよく話をしてみると、彼らは彼らのいる場所で、「台湾の国旗」を検索することも、見ることもできないのでした。彼らなりに一生懸命探して見つけた台湾を代表する旗は、この梅の花のエンブレムだったのです。
彼らが彼らの場所で検索をしても、決して出てこないものや事柄がある。当時の私は、そこに思い至りませんでした。

 

「台湾です」が日本語のまま台湾のニュースに

東京オリンピック2020では、チャイニーズタイペイなどとトンチキな名称ではなく台湾と呼んで欲しいと思っていました。
もともとは「た行い段」の「ち」に配置され、チェコの次に出るはずの「中華台北」。開会式の夜には、た行あ段・大韓民国の次、タジキスタンの前と、ちょっと繰り上がって登場しました。「台湾だー」「あれ?た行あ段?」と不思議に思ったものの、NHKの実況が「台湾です」とコールしたことは、その後続々と入って来た沢山のメッセージで知りました。
いくつかの台湾のメディアでは、NHKの実況が放った「台湾です」の4文字を日本語のままニュースのタイトルに入れて報道しています。

中華隊進場NHK主播:台湾です!網友:今晚最感動4個字

日本NHK主播:「台湾です」 台灣民眾超感動直呼台日友好

女主播喊「台湾です」爆紅 名模笑容配東大頭腦人氣超高

なお、た行い段方面はちょっと慌ただしくなった模様です。香港のオンラインメディアでは「中華台北の入場にNHKのアナウンサーが台湾ですと呼んだらテンセントの中継がいきなり切り替わり、中国チームの入場シーンも見れなかったよ」と報道がありました。
【奧運開幕】中華台北隊出場 NHK主播以「台灣」稱呼 騰訊秒切畫面 連中國隊都看不到

探しても、探しても見つからないものがある。そのことに気づいている人も、知らずにいる人も、支障はないとみて見ぬふりをする人もいるのかな。梅のエンブレムしか見つけられなかった彼らは今、どう思っているだろう。突然途切れる中継に、思うところはあるのだろうか。
スポーツと政治は切り離して考えるべき。
そうも言ってはいられないし、こんな時だから詳らかにするチャンスなのかもしれません。
始まる前から色んなことがあった東京オリンピック2020。始まってしまえば大会はアスリートたちのものです。
余計なものを振り切った、美しい戦いを期待しています。

台湾でのオリンピック実況中継を見ていて気付いた。表示は中華民国の旗でした。

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mimi
ライター/コーディネーター。 香港から猫を連れて台北へ移住後、30年ぶりに東京暮らし。満喫中。 台湾と香港に関する現地情報の執筆や、撮影手配などの仕事をしています。 |Instagram| |Tweitter| |Profile| |Contact|