猫に置き去りにされたおばさんの家に、飼い主が手放さざるを得なかった黒猫が来た。

22年と2カ月、香港・台湾・日本と三か国での任務を終えて猫星に還っていった福ちゃんは、腎臓の療養食や、台湾から日本へ渡航時に使ったケージ、補水用の点滴パックなどを最後の任務地・東京で、私の手元に残していきました。
高齢猫用の特殊なものが必要な誰かの役に立てばと思い、地域の猫ボランティアの方に連絡したのは、今年の2月のこと。

そのボランティアの方たちは月に二回、西荻窪の書店の地下で保護猫の里親会も行っています。でも、心が動くたびに福ちゃんが戻って来るので、私はその里親会には行けませんでした。
福ちゃんが戻って来るって、どういうこと？
妹や友達に話すと、眉をひそめて聞き返されます。

『インスタグラムに流れてくる「明日の里親会に出る猫」を見て、行ってみようかと思ったのよ。
そしたらその翌朝、シーツに小さな水分のしみがあったの。
えっ、私？！ボケたかついに？！と慌てたけれど、私じゃない。しかもその痕跡は、いつも福ちゃんが寝ていたあたりにあったの』

そう話すと、妹や友人たちは二の腕をさすりながら
「福ちゃんが、止めに来たんだねえ…」
と口をそろえて言いました。

一度も夢にも出てこないし、一切気配も感じさせない福ちゃんなのに、譲渡会に心が動くとお粗相印が来る。それが一度ならず、二度までも。
そんなわけで、私は一度も里親会へ出かけることはありませんでした。猫ボランティアの方とは福ちゃんの遺品を引き取ってもらった時以来、お会いする機会も、連絡することもありませんでした。

そこで突然、ピンポイントでもらった里親探しのご連絡。
飼い主のご夫妻が高齢のため揃って施設に入居することになり、13歳の黒猫ちゃんの預かり先を探しているというチラシが添えられていました。
可愛がっていた猫を連れていけないなんて、飼い主さんはどんなに辛い思いをしているだろう。私は福ちゃんを連れて二度海を渡ったけれど、おいて行く、手放すという選択肢ははなからありませんでした。でも、緊急事態や住む所の事情ではもう、どうにもならないこともあるでしょう。
それに、仔猫ならともかく13歳でしかも黒猫は、里親探しは難しいかもしれない。なによりも「えるちゃん」、いい顔しているぜ…

一度お話を伺いたいですと返事をした日も、ボランティアの方たちと一緒に飼い主さんの御宅へ出かける日も、福ちゃんは御印を残しに来ませんでした。これは福ちゃんからのOKが出ているということかな？
そうして、えるちゃんが家に来ることになった日の朝。
福ちゃん来たー！
大笑いしてしまったわ。シーのあとだけでなく、お供えの水や線香立てまでひっくりかえっている。大暴れだなあおい。
でも、嫌がっているのではないような気がしました。私の勝手な思い入れかもしれないけれど。

View this post on Instagram

A post shared by 𝗺𝗶𝗺𝗶｜33ʀᴘᴍ (@mimicafetw)

えるちゃんはこれまで家と外を自由に出入りしていたそうで、まずはケージの中で暮らし、完全家猫になる訓練から始めました。
今のところ、私のステイタスは預かり中といったところ。トライアルとでもいうのかな。ボランティアの方も気さくな良い距離で見守ってくれて、とても心強いです。そんな感じで、猫に置き去りにされたおばさんと、お父さんお母さんと一緒に暮らせなくなったシニア猫とで、同居生活の始まり。