台湾でもサッカーやってるの?
台湾でサッカー中継を観るのは、砂漠でオアシスを探すようなものです。
ブンデスリーガ(ドイツのサッカーリーグ)の放送予定を見つけてテレビの前で待機したら、台湾の高校バスケの試合及び表彰式を延長して、中継がカットされたことがありました。
週末の、待ちに待ったお楽しみが・・・!
蜃気楼のように消えた泉、いやさサッカー中継。テレビの前で行き倒れになった私の背中に猫がどっしりと乗って、悲しみに止めを刺してくれました。
高校バスケの表彰式の中継が、プロサッカーより大事。
野球>バスケ>>>サッカー
地元>>>>>>>他国
台湾におけるサッカーの扱いを、思い知らされた出来事でした。
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台湾でサッカー、中華台北足球隊の試合を観に行こう!
3月26日、日本代表が2018年ワールドカップアジア最終予選を戦った日に、台湾では2019年アジアカップ出場権をかけた試合が行われました。台湾代表チーム「中華台北男子足球隊」の対戦相手はトルクメニスタン。会場は、台北アリーナに隣接する台北スタジアムです。
「台湾で野球の試合なら観に行ったことあるけど、サッカーもやってるの?」
「そもそも台湾に代表チームがあったの?」
と、意外に思う人も多いでしょう。野球やバスケにおされて、サッカーの代表チームに関する情報はトップニュースにはほとんど上がって来ないので、無理もありません。私もこの試合情報は、台湾の社会人サッカークラブ「Royal Blues皇家蔚藍」がfacebookでシェアした記事で知りました。台湾では、facebookやクチコミ情報チェックが結構重要ですね。
※余談ですが「Royal Blues」と聴いてピンと来た方はいらっしゃいますか。Royal Blueはドイツ語でKönigsblau、ドイツのフットボールクラブSchalke04の愛称でもあります。調べてみたら、こちらのマネージャーは以前Schalkeの育成部に所属してとのこと。数年前、SchalkeのU15だったかな、台湾の子供たちと親善試合をしたことがあって、ドイツ代表養成所とまで言われるシャルケのアンダーが、なんでまた台湾と?!と驚いたのですが、そういうつながりなのかもしれません。
サッカー観たい、生で観たい。
芝生の匂いとボールを蹴る音、スタンドでビール。サッカーを観ることと同じかそれ以上に、私は「スタジアムに行くこと」が好きなので、トルクメニスタンってどこにある国かよくわからないけど、行かない手はありません。
そして、今の台湾ならではの、生サッカー観戦の楽しさを発見しました。
300元で自由席。争奪戦無し、ストレスなし
2011年に行われたワールドカップブラジル大会の一次予選について、「中華民國足球協会」に問い合わせたことがあります。ちなみに足球はサッカー、棒球は野球です。
「チケットはどこで買えますか?」
「無料で配布しています」
「無料なんですか?!」
「はい、協会に取に来てください」
代表戦のチケットを無料配布することに驚きましたが、当時はまだ、台湾サッカーは有料で集客できるコンテンツではなかったのですね。
あれから6年、今年のアジアカップ予選は有料販売でした。スタンド席300元、全席自由。オンラインで買えると知って慌ててアクセスをしてみると「熱賣中」、チケットはまだまだ、余裕で買える状態でした。
「サッカー観に行くよ」「興味ある!」「行こう行こう、チケットはコンビニで買えるよ」
有料になったとはいえ、値段の安さと自由席であること、瞬殺にはならないことに再び衝撃を受けましたが、チケット争奪戦がない、「どこのブロック、何列目」を気にすることなく自由に誘いあえるのはストレスフリー。新鮮で、わくわくしてきました。
交差点に台北スタジアム。地下鉄、バス、徒歩でアクセスも
台湾で、FIFA公認のサッカー国際試合を開催する基準を満たしているのは「台北スタジアム」と高雄の「ナショナルスタジアム」です。
今回の試合はそのうちのひとつ、台北スタジアム(臺北田徑場)でした。場所は南京東路と敦化北路の交差点、コンサート会場としても有名な、台北アリーナの隣です。
MRT台北アリーナ駅からすぐ、周囲はバスも沢山走っているし、なんなら自転車や徒歩でも行ける。最大で二万人の規模だから、帰りに大渋滞や、駅の改札入場待ちになることもありません。
スタンド席の入り口は、敦化北路側です。
スタ飯は持ち込み。自己流アレンジ無限大!
サッカーの試合では、スタジアムでホットドッグやフレンチフライ、ご当地グルメなど「スタ飯」を買うのも楽しみのひとつです。
でもここは台北のど真ん中。コンビニや小吃のお店が周囲に沢山あるから、スタジアム内で飲食販売が無くても、びっくりしない、慌てない。
一緒に観に行く友達に「唐揚げとビールを持参のこと」とメッセージを送ると、
「頂呱呱の唐揚げにしよ」
「近くのコンビニでビール買お」
とお花見準備状態になりました。スタジアム近くの八德路にはずらりと小吃のお店が並び、鶏の唐揚げチェーン店もあるので、買い出しも楽です。
ただし、缶、瓶、ペットボトル類の持ち込みは禁止。これは万国共通ですね。入場口で紙コップを貰えたので、ドリンク類は中身を空けて持ち込みました。試合終了後もゴミはまとめて、外のごみ箱へ。スタンドに鶏の骨や紙コップが散らかることはありませんでした。
チャントのお約束無し!応援は自由にゆるゆるで
当日は夕方には雨が上がって、風も穏やか。日曜日の夕暮れに気の置けない友達と、芝生の匂いのする広い場所でビール片手にサッカーを観ながらお喋りをする、開放感をたっぷり楽しみました。
試合はトルクメニスタンに1-3で敗れました。中華台北が得点したのはPKの1点のみ、2点リードしていたトルクメニスタンに烏龍球=オウンゴールを献上して自ら止めを刺してしまって終了です。
サッカー経験のある友達は立ち上がって「下手くそォ!!」と叫び、私も頭を抱えたりしたものの、初めてサッカーを観た友人たちは楽しそう。
「台湾に住んでいるトルクメニスタン人は4人。大使館員とその家族だって」
事前に下調べをしてきた友達は言いました。
「応援する人が少ないでしょ。だから私はトルクメニスタンを応援する」
ベトナムと対戦した時には、台湾在住のベトナム人が大勢応援に駆け付けたと聞きますが、トルクメニスタンの応援席はこぢんまりしていました。なので、その場でどちらを応援すると切り替えもいいかもしれません。友達はトルクメニスタンが得点すれば大喜び、
「もう一点いれようぜ!」
と普段は聞いたことのない威勢の良い言葉を連発。私は友達の興奮状態が面白かったので笑いっぱなしでした。周囲を熱いサポーターに取り囲まれていたら、敵の得点に喜びの表現はしにくいもの。でも今日は自由席なのだから、どちらを応援してもいいのです。
ゴール裏で鳴り物やトランペットを入れてチャントを繰り出す熱いサポーター、いわゆる「ウルトラス」のようなグループもいました。彼らの唄う
「オーオーオーフォルモサゴールー」
にあわせてスタンドも手拍子を打つことはあったものの、応援の仕方は自由。煩すぎず、お約束も決まりもなし。
好きなように楽しく、応援したり(しなかったり)、自由なスタイルがとても気楽で良かった。初めて観る人にも安心、安全です。
試合終了後、ちびっこたちがわらわらとスタンドを最前列に降りてきました。負けて戻ってきた選手たちは、スタンドに向かって笑顔で手を挙げ拍手をしたり、丸めたポスターを席に投げ入れたり。
負けたのに選手は笑って手を振ってる。どうして。
負けたのに誰もブーイングしない。どうして。
スタンド席から乗り出し、選手たちに手を振るちびっ子たちは、男の子も女の子も、サッカーのユニフォームとシューズを身に付けていました。
サッカー少年・少女たちにとって、中華台北代表選手は憧れのアイドルなんだろう。
この子達にいつか、負けたら悔しい、顔も上げられないほど悔しいと知る日が来るだろうか。勝って誇らしげに、手を振る日が来てほしい。
6年前、無料で配布されたチケットで観た中華台北は、蹴鞠のようなおっとりしたサッカーでした。ほぼ満員のスタンドを覆うほど大きな台湾の国旗が波打って、サッカー好きと、ナショナリズムの表現が一緒くたになった盛り上がりだったことを覚えています。でも当時は負けても仕方ないレベルだったから、あーあとため息をつくだけで、悔しいと思うことさえおこがましいような気がしました。
今年は300元のチケットで自由席、入場者は5,898人。日本人の監督やコーチを招聘して、代表選手たちは社会人のクラブや、中国のプロリーグに所属しているとのこと。選手交代で下げられる選手は、替わる相手とタッチをして、ピッチに向かってお辞儀をしてからベンチに戻る作法は日本と同じでした。トルクメニスタンの選手たちはお互いを避けるような下がり方をしていたので、とても対照的に見えました。
「代表といっても、日本の大学生レベルだな」
サッカー経験のある友達は憮然としていたので、
「蹴鞠時代より全然良くなっているよ。サッカーらしくなってきた」
と私は答えました。
平安時代を彷彿とさせる雅なボール回しから、たった6年で現代の大学生レベルになったなら、凄い進化じゃないかな。素人の私の見方では、甘いかもしれないけど。
まだまだ、これから。台湾のサッカーはこれからもっと面白く、強くなると思います。こんな風にのんびりと、好きな席に座って観戦できるのは今のうちだけかもしれない。でも、自由なままでもいてほしいな。
また台湾のスタジアムへ、サッカーを観に行こう。
次の中華台北男子足球隊のアジアカップ予選、ホームゲームは10月10日の予定です。台湾のフットボールアソシエーションのサイトで、情報をチェックしましょう。
中華民國足球協會CTFA
スタジアムに入り、スタンド席に向かう通路からピッチが見えてくる眺めです。どのスタジアムでも、私はこの眺めを見る瞬間がとても好き。
台北でまたひとつ、好きな場所ができました。