香港

香港で事故の後「りんご日報」の記者だけが追いかけてきて、手紙をくれた。

香港で事故に巻き込まれた私のその後まで追いかけて来たのは「りんご日報(蘋果日報/Apple Daily)」だけ。あんなえぐいイラストにされるのはまっぴらごめんと逃げ回る私のポストに、記者から手紙が入ってた。

 

香港で暮らしていたある日、私は事故に巻き込まれ、自分で救急車を呼んだ。救急隊の人は担架に乗った私を頭からブランケットで覆うと、
「記者が集まっているから」
とそっと教えてくれた。
ブランケットを被っていたのでその時はどれほど記者が集まっていたのかわからなかったけれど、翌日ほとんどの新聞に私のことが載っていたので驚いた。
「記者が無線を傍受しているんだよ。事件や救急の要請を聴いて、ニュースになりそうだと集まってくるの」
と友達に教えられ、なるほどねと感心した。日本人という見出しに、ニュースバリューがあると思われたのかもしれない。

 

救急車の中でブランケットから顔を出し
「困ったなあ、私来月クアラルンプールに行く予定なの。こんなんで行けると思う?」
と救急隊の人に質問するほど意識もはっきりしていた。
(医師にも旅行に行って良いか尋ね、めんどくさそうに「好きにすれば」と言われて予定通り行った。とても楽しかった)
病院の入り口にもマスコミがいると言われ、ふたたびぐるぐる巻きで病院入り。その後も警察がついていたので、インタビューに答えていない。だからどの媒体も警察に聞いた話で一通りの記事を作っていた。プレスリリースを元に、記事をまとめるのはよくあること。そりゃそうだよね。事故当事者の話しを載せているニュースなんてあまり見たことがない。
だけど「りんご日報」の記者だけが、その後も私を追いかけて来た。

りんご日報といえば、強烈なタッチの再現イラストが名物。
その画風はホラーというか恐怖新聞というか、可愛さの要素は一切なし、ほぼ現代の地獄絵図。りんご日報のイラストを張り巡らせば肝試し会場になるだろってくらい。見る分には「やあねえ」「あら大変ねえ」「なにもそこまで描かなくても」と眉をひそめてやり過ごせるけど、あれに自分が描かれるのは、やっぱり御免被りたい。
他の事ならお笑いネタに出来たかもしれないけれど、全く予期しない事故に巻き込まれてさすがに私もナーバスになっていたし、知らない人との接触に、かつてないほど拒否反応が出ていたせいもある。
私は「取材は一切受けません」と断った。
りんご日報の記者は、ポストに封筒を残していった。一日も早い回復を願っていること、もし気持ちの準備ができたら連絡してほしいとメッセージと、名刺を添えて。

気持ちはそう簡単に落ち着かないし、急いで引っ越しもしなければならなかった。結局私は、手紙をくれた記者に連絡はしなかった。
気持ちをほだされて、あの恐怖新聞イラストに描かれてはたまったものではない。そう思う反面、記者がくれた手紙のしっかりした知的な文字と励ましの言葉には、温かさを感じたことは覚えている。

 

事故に関係することは記憶しているので、物質的な「思い出」は一切残していない。その時身に着けていたもの、気に入っていたバッグも全て処分した。
今日、あの時りんご日報の記者がくれた手紙を手元に残さなかったことを少し後悔している。記者の名前も覚えていない。でも、プレスリリースで済まさずに、当事者の私の話しを聴きに来たのは、りんご日報だけだった。そのことだけは、これからも忘れない。

 

 

 

香港人と台湾人のイラストレーターユニット、FBで。

 

 

2021年6月21日りんご日報ニュースチャンネル、最終回。字幕つき。
※6月23日までは視聴できましたが24日、アカウントは削除されました。


りんご日報なコラム

なぜ広東語字幕にこだわるのか、りんご日報がインタビュー。興味深かった。思惑は別にしても、広東語字幕はエモーショナルに弾むようで日本語、台湾中文より面白かったのです。

 

新聞読みながら朝ごはんが普通のことではなくなった2021年。

 

 

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mimi
台北在住のライター/コーディネーター。 長年暮らした香港から、猫を連れて台北へ移住しました。 台湾と香港に関する現地情報の執筆や、撮影手配などの仕事をしています。 |Instagram| |Tweitter| |Profile| |Contact|