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【2gether】タイドラマ、香港の広東語字幕ボランティアチームにりんご日報がインタビュー【水牛】
香港

【2gether】タイドラマ、香港の広東語字幕ボランティアチームにりんご日報がインタビュー【水牛】

Youtube配信のタイドラマ「2gether」につけられた各国語字幕。「水牛」のニュアンスが一番腑に落ちた広東語字幕の香港「登製港字字幕組」、彼らがボランティアで香港版の字幕を作り続ける理由を、りんご日報(蘋果日報/Apple Daily)がインタビュー。

 

タイのドラマ「2gether」世界24言語の字幕をつけたのは、各国のボランティア。

2020年に世界中がコロナ禍でステイホームを強いられた中、大ヒットになったタイのドラマ「2gether The Series」と続編「Still 2gether」。ドラマを制作したGMMTVのYoutubeチャンネルで配信されました。
「2gether」の世界各国で人気のすごさは、Youtubeについている字幕の一覧でわかります。その数ざっと24言語。もともとGMMTVが付けているのは、グローバルな英語字幕のみ。その他言語の字幕は、それを母語とする熱心なファンが自力でセリフを翻訳し、ボランティアでつけたものなのです。

 

タイドラマの字幕、言語の数だけ解釈が増える楽しさ

各国の有志がつけた字幕を見比べると、字幕を付けた人たちの文化や背景が支えているのが感じられます。

特に私が膝を叩いて「腑に落ちる」と納得したり、手を叩いて爆笑したのは香港のボランティアチーム「登製港字字幕組」が付けた字幕。広東語のもつリズムと熱が、聴きなれない言語のドラマを弾ませて、生き生きとしたおしゃべりを再現してくれる。旅行や仕事ではいったけれど、言葉や学生生活、習慣や文化もわからないタイのドラマと、ローカライズされた字幕が距離を近づけてくれたような感覚がありました。

日本では本国より早く世界最速の映画公開など、大きな展開をしている2gether。日本国内の有料のチャンネルや地域の地上波で視聴できるので、無料のYoutubeは「ジオブロック」がかけられアクセスできない状態なのだそう。2021年6月現在も、台湾からは問題なくアクセスできるので、日本・台湾・香港の字幕をピックアップし、比較してみました。

画像:©GMMTV

「2gether」で日本・台湾・香港 字幕比較

水牛に込められる「ばか」のバリエーション

主人公のサラワットとタインは大学生、ワットは何かというとタインを「水牛」呼ばわりしていました。
タイ語で「水牛」は相手をバカにする、罵倒する言い回しなのだそう。でも、字幕を必要とする我々外国人、現地事情に明るくない人にはぴんときません。日本、台湾、香港の字幕はどうなっているでしょうか。

参照:2gether The Series 第8話(4/4) より

日本:「Little Buffalo」

英訳そのまま、小さなバッファロー。
良くも悪くも、なんのことやら字幕だけではわかりません。
でも、どういう意味?と興味を持って調べる、タイ語や文化に自から近づくきっかけになりました。

台湾「小牛牛」

 

こちらも「バカ」のニュアンスはなく、台湾的な「小」をつけてさらに「牛牛」と重ねる呼び方。守るべき小さな可愛いもの、という気持ちがわかります。

香港「傻仔」

字面で見るとストレートに「ばか」ですが、この場面では愛のこもった「俺のおバカさん」と言っているのがわかります。

 

広東語で「傻仔」、語気を強めて鼻先から見下すように言えば「頭が悪いヤツだな」と冷たい罵倒になります。でも、相手の頭を抱きしめてぐりぐりしながら甘ったるく言えば「もー、ばかなんだからー」にもなる。この場面では、タインが可愛くて仕方ないサラワットの気持ちが短く静かな語気からも溢れる一言でした。
ここではうつけもの、バカを表す「傻」と男子を指す「仔」ですが、「女」や「瓜」、「豬(ブタ)」にも応用されます。
私は香港で初めて「傻豬」と呼ばれた時
「バカでブタって……?」
と真顔になってしまいました。でも、これは直訳するとこじれるケース。相手がどんな表情、どんな声で呼んでいるかで、愛情なのか蔑みなのかまるっきり変わります。「豬」は「珠」の音にかけられた、大切なもの、子供や友達、恋人にも向かう言葉なのです。
香港の広東語には罵倒や揶揄の表現が豊富なので、「これって日本語ではなんていうの」「日本語の悪いことばを教えろ」と相応な表現を尋ねられ、困ってしまうことが多々ありました。タイ語もそうだというけれど、牛ではちょっとぴんとこないからストレートに「傻仔」。そこに愛があるのか否かでニュアンスが変わるのは、タイも香港も同じかもしれないですね。

「彼はまだ治療中なんだ」の言い回しもローカライズ

主人公・タインの兄・タイプにいきなり口説き文句を羅列する友人・マン。英訳では「He is in treatment actually」、激怒するタイプさんをタインがなだめる場面。ここも香港だけ、ローカル色強めです。

参照:2gether The Series 第10話(3/4)より

 

日本「彼はまだ治療中なんだ」


 

台湾「マンは脳がショートして医者に診てもらっているんだ」


 

香港「あいつは青山に通院してるんだ」

シンプルなセリフでも、日本、台湾、香港で言い回しが異なっています。日本のはシンプルで分かりやすい。台湾も「腦子有洞」で、ストレートに「神經病」とはしない言い回し。
問題は香港です。青山とはいったい?
これは香港人や香港在住者ならぴんとくる言い方。
「青山醫院」は歴史の古い香港でも有名な精神科の病院で、「青山へ行く」は精神科の治療を受けるという意味にもとられるのです。90年代くらいまではわりと聞いた、あまり良くはない言い方かな。でも、タインの口の悪いキャラクターに被せて、香港ならではのローカル色が表れています。

 

この場面は好きで何度も見ました。ショートして溶けているマンの立て板に水口説き文句と、それを冷たく、でも時々微妙にぴくりと変わる表情で聴き咄嗟にとびかかろうとするタイプの瞬発力、とても魅力的でした。

 

台湾だけが「ポッキーゲーム」と訳したローカル文化の尊重

字幕にローカル文化が出るのは香港だけではありません。先輩にあおられる「ゲーム」の場面の字幕には「台湾さん、さすがです」と感嘆しました。

参照:Still 2gether | EP.2 [1/4] より

日本「スナックゲーム!」

 

香港「おやつゲームしましょ!」

 

台湾「ポッキーゲーム!」

 

そもそもここでは「ポッキー」ではなく「プリッツ」状のスナックを使っているので、英訳に忠実に「スナック、おやつのゲーム」で問題ありません。しかし台湾がつけた字幕は「ポッキーゲーム」でした。これが日本発祥のゲームと理解している、各国の文化を尊重する静かな矜持が感じられて「さすが台湾、わかっていらっしゃる。ごっつぁんです」と頭が下がりました。

 

エンターテイメントを通じて次の世代へ伝えたいローカル文化

 

病院通いの字幕を広東語のダイレクトな「黐線」とはせず、香港ならではローカルな言い回しに。
香港の字幕チームは大学生など若い世代だと聞いていたので、良し悪しはともかく、今でもこの言い方が残っているのかとちょっと意外な気もしもす。
「残る言い回し」のなぞは、蘋果日報(香港Apple Daily)のインタビューで解けました。

 

大学生から社会人までの数十人の有志が、ドラマに字幕を付けるために無償で深夜まで作業をする。
なんのために、そこまで?
私がもまれた90年代からの香港の世間では「香港人は金にならないことなどしない」とはっきり言われたし、お金にならないことを一生懸命する、対価を受け取らない人は、それこそ「バカじゃないの?」と見下されていたはず。でも、この頃はお金にならないことをやってのける香港の人たちを、あちこちでみかけます。
2000年代以降、香港の若い人たちの話し方や佇まいはどんどん変わっていくと感じます。
彼らのインタビュー記事から、印象的だった言葉を拾い上げてみました。

 

「字幕を見ると、香港の広東語がないことに気づいた」

「繁体中文で作ったら、台湾のものと大差ない」

「広東語は書面用ではない話し言葉。だから書いたり読んだりできないひともいるし、字幕は台湾のを見るほうが楽だと言う人も多い」

「このままではいつか、香港の文化、香港ならではの言葉や言い回しも消えてしまう」


「タイのイケメンが出るドラマは、ステイホーム中の癒し、カジュアルな娯楽。エンターテイメントを通じて、香港ローカルの文化を次の世代に伝えたい」

 

「広東語は話し言葉、正式な書面の文章にはしない」というのも、学校の先生や、先輩方からとても強く念をおされました。「話し言葉のまま文章を書くのはバカのすることだから」と。普段は人のことをそんな風に批判しない人たちが、広東語で文章を書き起こすことは強いことばで断罪するので、震えあがった記憶があります。
それでも、ここ数年は香港へ行って広東語で話す機会があると、それを母語とする人たちが胸を張っているのを感じる。公用語とされる英語や、いわゆる北京語ではなく、自分達のことばへの愛情と、誇り。会話に混ざる時の弾むような心地。私はこれまでに何か国語か学習はしたけれど、広東語ほど話したいと熱望し、愛した言語は他にないからかもしれません。

香港がからむと、軽やかに楽しんでいた気分が重くなる?

このご時世で香港がからむと、タイの共通点、ミルクティ同盟、出演者が巻き込まれた炎上騒動など、日本のファンの人たちは触れない案件がどうしても浮かんできます。ミルクティアライアンスを中国語で調べると、真っ先に俳優の名前が挙がってくるのに、日本語では全く触れられていない。なので私もここでは触れません。
ドラマの世界にこころ踊らせていた人たちは戸惑うかもしれないし、「そういうことは求めていない」と眼をそむけるかもしれない。
そこで意識の高さや知識の深さを測られる?
純粋に娯楽として楽しむのは、罪なの?
いちいち背景や文化を知り理解しなければ、本当のファンとはいえない?
私はたまたまミルクティー炎上騒動で俳優を知り、そこからドラマを見始めたパターンだった。でも、燃え上がる入口も、入ってしまえば萌えるパラダイスだった。エンターテイメントはエンターテイメント、「あら素敵」「ああ楽しい」とこころ踊らせています。

ただだた、好きだから。きっかけも楽しみ方も十人十色

無償の字幕作りは、作品に対する愛着や萌え、情熱がなければ、とうていできることではない。セリフのひとつひとつを翻訳しながらタイミングを合わせて字幕をはめ込む作業を、誰が寝る間も惜しんでボランティアでする?
何の得にもならないことなんて、「好き」でもなければなし遂げられない。
香港で作られる字幕は、合間に翻訳者の「萌えポイント」が注釈で差し込まれ、それが少し煩わしいと感じることもあります。
でも、それこそが無償のボランティアが、ただただ好きで字幕を付けている証かな。宣伝でも政策でもなく、ただただ、このドラマが好きだということ。
そして、香港の広東語が好きだということでしょう。
タイのドラマの楽しさを知る。
香港の広東語の生き生きとした魅力を改めて思い知る。
字幕を付ける人たちの存在と、その心意気に触れる。
きっかけは色々、その先の楽しみも、出来事も、十人十色。

 

2gether the Series 連登港字組 まとめページ
ドラマや関連動画がきれいにまとまっています。
好きじゃなきゃ、無償でここまで作らんわ。

 

https://mimicafe.net/diary_17may2021/

 

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ライター/コーディネーター。 香港から猫を連れて台北へ移住後、30年ぶりに東京暮らし。満喫中。 台湾と香港に関する現地情報の執筆や、撮影手配などの仕事をしています。 |Instagram| |Tweitter| |Profile| |Contact|