台北生活の日記

「俺らの言葉」に混ざるため。外国語学習のこと

香港で広東語を話すと「普通話(いわゆる北京語)も話せる?」と聞かれます。

香港では範囲を選べば英語で仕事や生活も事足りるので、敢えて広東語語を勉強する必要を感じない外国人が多かったと思います。
今私が住んでいる台北では、中国語(日本で言う北京語、香港では廣東話が中文、標準中国語は普通話、台湾では国語)を話せば日常生活はほぼ問題がありません。
公共の場所でもアナウンスはまず「国語バージョン」からはじまります。

エキサイトして台湾語で喋る人たち

けれども、「台湾語の壁」というのは結構高く厚かった。

それまで私たちにも共通言語の国語だったのに、突然台湾語で喋り出す人がいると

(あ、私らには聴かれたくないことを喋ってるのかな)

と思いました。それを率直に尋ねると、
「そうじゃない、台湾語の方が楽だから」
と答えが返ってきます。

(そうよ!とは言わないだろうけど)

 

どこの国にも、わざとその場にいる一部の人だけリンクできる言語を使って、一緒にいる誰かをはじき出すそうとする意地悪な人もいるので、ちょっと敏感過ぎたのかもしれないですね。

 

台湾で、さらに南部へ行くと、国語を話さない人も結構います。

「すみません、私は台語わかりません、国語で話して貰えますか」

と言っても延々台湾語で喋られる。

わからない私が悪いのか、本当は話せるのにわざと話さないんじゃないのかなと考えてしまうことも度々。南下せずとも、今住んでいるアパートで管理をしている女性は完全に台湾語のみで、ほかの管理人が「彼女は日本人、台語はわからないんだよ」と何度たしなめても、絶対に国語を話しません。会えば必ず笑顔で、でも私にはわからない言葉であれこれ話しかけてくるので、もう私も気にせず、(たぶんこの件だろう)と適当に国語で返しています。

話せないのか、話そうとしないのかは結局良く分からない。

良く言われる「フランス人は英語わかっててもフランス語で返してくる」のとは、違う事情だろうとは思います。やっぱり「台語が楽だから」なんだろうか。

「香港なら英語通じるでしょ」と同じ理屈?自分の話せる言葉でごり押し?

むしろ、私が「台湾なら国語が通じるだろう」と思い台湾語わからない。と相手に言語を変えるようにお願いするのは

「香港なら英語通じるでしょ」

とどこへ行っても英語で喋り、広東語しか通じないと不機嫌になって
相手の素養が低いといい始める(軽蔑しちゃう)人たちと同じなのではないか…

私は北部にいるし、南部との縁が薄いので、その辺の事情はまだ、実感として理解していません。

 

香港で生活していた頃、英語を使うのは英語圏の人と対面した時にもごもごと簡単なことをつぶやく程度、公文書やメールのやり取りも持てる限りの語彙の超シンプルなもので、私の日常の大部分は広東語と日本語。そして、

「俺らの言葉がわかるんだね」

と香港人に笑顔で言われることが何度もありました。

台湾で、「国語ができるんだね」と言われることはあっても、「俺らの言葉」という表現は、まだ聴いたことがありません。

日本と香港両方の訛りを持つ私の話し方を聞いて

「俺らの国の人ではないようだね?」

と言われることはあるけれども。

台湾での「俺らの言葉」は、台湾語なのかなあ。

北部だと台湾の人自身にそこまで意識はない、外国人の勘ぐりかもしれないですね。

学校では教えない、本音のいいまわしに血が通う時。

中国語とひとくくりにしても、広東語で表現できるニュアンスが国語には無いことが多いと感じます。
昔、香港人に散々「日本語の粗口(いわゆるFワード)を教えろ」と言われて「無いよ」と答え、嘘つき呼ばわりされたので仕方なく「お前の母ちゃんでべそ」と教えたことがありました。

ある日、日本語が堪能な台湾の友達に

「日本語で言う大っ嫌いとか、むかつくー!って表現無いの?」

と尋ねると困惑しつつ

「討厭でしょ?」

と優しく教えてくれる。
そんな優しいいい方では伝わらない「コノヤロー!」的なものは無いの?と突っ込んでも、「えー、無いよー」。
うそだあ!とびっくりしてから、あの時私に執拗に食い下がった香港人の気持ちがわかったような気がします。

そして、広東語には罵倒の言葉がとても豊富なんだと気が付いた。
それらの言葉を必要とする場面が多すぎるサバイバルな土地柄のせいなのか、国民性なのか。

台湾にそういう言葉がないのなら、それを表現するための感情に至らないのか、そういう感情がないから表現する言葉も生まれないんだろうか…。

「サッカースタジアムのアナウンスを聞き取りたいから」台北でドイツ語を学ぶ理由を話すと大抵呆然とされる

なんでドイツ語を勉強するのと尋ねられます。
私も、わざわざ台湾でヨーロッパ言語習うより、国語をブラッシュアップする、台湾語に挑戦するのが筋なんだと思う。

でも、ドイツでサッカーの試合を観る時、試合の前後、スタジアムで人々が何を話しているのか、何に盛り上がって何を誉め、何に怒っているのか、ゴールした時皆が何を唄っているのか全然わからなくて、それが寂しくてつまらないから、知りたくて齧り始めました。

それと、ドイツの人たちが想像していたよりも親切で、優しくしてもらったことが何度もあるから、御礼をちゃんと言いたいというのも大きい。
ドイツ語難しすぎて、齧っているだけであまり呑み込めていないけれど…。それでも、台北で台湾人に混じってドイツ語を習うのも、なかなか愉快です。

齧ったことが少しは身についていて、ドイツのサッカースタジアムやお約束の電車遅延のアナウンスが理解出来たり、今日のゲームの感想が伝えられたりするとほっとするし、ポテトフライに添えるマヨネーズはいらないと言えたり、美味しいケーキを勧めてもらえたり、寒いからビールは結構ですと断ったりできるのも、応援している選手の批判でも賞賛でも、ニュアンスがわかると納得します。

「私たちの言葉がわかるの!?」

ドイツ人のサポーターに肩を組まれてチャントを一緒に歌えたり、特定の選手の話をできたりしたのは嬉しかった。

本当はもっと色々話したい。

香港で、広東語で香港人の友達と「傾心事」をしたように、国語でもドイツ語でも、話せるようになりたいです。

「かもめ食堂」のマサコさんのように、フィンランド語がわからないのに相手の気持ち、言っていることが理解できる懐と心があったらいいんだけど…。

「この言語を母語とする人と、もっと話したい」学ぶ理由はつきつめれば

そういうわけで、私は台湾語はわかりません。南部の何かに興味を持ったら始めるかもしれないけれど、正直に言えば今のところ、聴いた限りでは発音や語気があまり好きではないためです。
そんなこと言うと「広東語の方が下品で煩い」と怒られるんだけど。

とは言っても、耳と感受性の良い人なら、知らない外国語を聴いても
「この人の話し方は標準的だ」
「この人は雑に話している」
と理解、区別ができていると思います。
タクシーの運転手さんやマッサージやさんでも、そういう「耳」のある人に、私の背景を尋ねられたことが何度かありました。
あなたは日本人のようだけれど、日本で生活している人ではないでしょ。
顔と仕草は日本人だけど訛りは香港、あんたどこの人。
何か別の言語や生活習慣を持っている人とお見受けしますね。
自分には見えていない何か、気づけない言葉の訛りを見知らぬ人に指摘されるとドギマギするけれど、面白いなあとも思います。たくさんの人に出会っている人たちだから、耳が鍛えられるのかな。そういう人たちに訛りを指摘されることはあっても、「失礼な話し方だ」と顔をしかめられる気配はないようなので、これからも気を付けようと思います。
この言葉を自分でも話したいと思うかどうか
この言葉を話す誰かと、もっと話したいと思うか
私にとって語学の勉強は、ただそれだけが出発点だったなと、こうして書き出してみると改めてわかってきました。
ABOUT ME
mimi
ライター/コーディネーター。 香港から猫を連れて台北へ移住後、30年ぶりに東京暮らし。満喫中。 台湾と香港に関する現地情報の執筆や、撮影手配などの仕事をしています。 |Instagram| |Tweitter| |Profile| |Contact|