日本国内旅行

京都御幸町二条の「cafe mole (カフェ・モール)」。ここに来たくて、京都で降りた

大阪から東京へ戻る前に京都で降りたのは、とあるカフェにどうしても行ってみたかったからでした。鬱蒼と生い茂る木々にひっそり隠れたドアの中、cafe mole。

 

ここを知ったのは、台北で暮らしていたころNHKワールドプレミアムで放送していた「京都人の密かな愉しみ」というドラマに登場するBar forest downで。俳優の秋山菜津子さんが、長いコの字型のカウンターの中にるマダムを演じていました。秋山さんが演じる女性の息子やその友人たち、バーを訪れる優しげだけど一筋縄ではいかない京都の若者や大人たちとの接するマダムの存在が、とても素敵だったのです。秋山さんは日本に数少ない大人の女性、苦み走ったエレガントのある俳優。カウンターの中で着ていたブラウス、首の後ろから少し入ったスリットが素敵で、お衣装も毎回楽しみだったな。香港や台湾で暮らしたころはなかなか日本の舞台を観に来るチャンスもなかったから、帰国した今となっては秋山菜津子さんは必ず観に行きたいとひそかに思っている方なのです。

cafe moleのドアを開けた瞬間、「あれはセットだったんだ」と理解してちょっと呆然としてから、一枚板のカウンターに座りました。コの字型のカウンターはドラマのために作られた空間で、forest downは外観のみだったのだと。

それでも、がっかりはしませんでした。店をやっていた男性もまた、大人なアーティストの佇まいでムードがあったのです。そして、私の後に入ってきたお客さんたちもキャラクターが濃いこと。
後ろのテーブルには洋装のマダムたち。お茶のお稽古帰りで、姉弟子を待っているのだと、話し声からわかりました。「京都で」「お茶のお稽古」「姉弟子」。背後から聞こえる重厚な単語の羅列に圧倒されて、私は目を真ん丸にしてひとりじっと座ったまま。カウンターの内側にはおびただしい数のレコード。ターンテーブルが回って、秋の午後に合うトーンの音楽が流れていました。少し離れた席には、エキゾチックな民族衣装をまとったアフリカ系の男性と日本人の女性のカップル。にこやかな雰囲気だけが感じられて、話し声は私のいる場所まで届いてこなかった。

後から来た女性の二人連れ。私と同じカウンターに案内されたけれど、日本語は話せないようで、英語と身振り手振りで質問や注文をしていました。カフェの空気にあわせて、落とした声で話すふたりの会話は中国語。カウンターに置かれた苔テラリウムを物珍しそうに眺めているふたりと目が合うと、ちょっと恥ずかしそうに微笑んでくれてよい感じ。「どこから来たのですか」中国語でそっと尋ねると「杭州です」「どうして中国語を?」驚かせてしまいました。聞くと、ふたりは神戸や大阪を回って京都に来たのだそう。今日は展覧会を見てきた、明後日には東京へ行くと、目を輝かせて言っていました。どうやってこのカフェを見つけたの?とたずねてみたら、「歩いていたらたまたま見かけて、いい雰囲気だなあと思って入ってみたんです」

偶然にこのカフェにたどり着ける旅なんて、素敵だなあ。あなたたちは見る目がありますねと素直にほめると、ふたりとも嬉しそうでした。
髪が長くて若々しいけれど落ち着きと好奇心がバランスよく、日本人にも、台湾人にも香港人にも見えるようで、少し違う。新しいタイプの中国の30代女性たちなのかな。

カウンターで注文したのはカレーとチャイ。
カレーは2種類あいがけにできるので、チキンキーマ、くるみとカシューナッツを選びました。

 

 


こちらのチャイは、はっとするほど美味しかった。
たぶん私が人生で飲んだ中で一番好きでした。ここに来る前に飲んだコーヒーもだけれど、京都の飲み物にはっとするのは、水のせいなの?それだけではない、素材や技量が重要なのは勿論だけれど、それも併せてなんなのだろう。これが当たり前どすえなら、京都はとっても恐ろしい。
中国の女の子たちは最初、それぞれミルクティやコーヒーを頼んでいたけれど、オーナーが先のオーダーのために作っていたスパイシーなホットチョコレートをカウンター越しに見てあわてたように身振り手振りで「これは何ですか」「おいしそう」「同じものに注文を変えてもいいですか」旅行者の可愛いわがままにオーナーは淡々と誠実に対応していて、私はカレー喰らいながら傍で見ていてほほえましかった。京都にきてまで、なぜカレーなの。これまで、カレーを外で食べると重かったり辛かったりで(やめておけばよかった)と後悔することも多かった。でも、cafe moleのカウンターでチャイとともに食べたカレーはスパイスの複雑さをみせつけない優しい味に煮込まれて、美味しくすんなりお腹に収まった。

久しぶりすぎる京都でひとり、内心いちいち驚き、深く感嘆していました。

できることならこの場所を借り切って、友達や家族とのんびり過ごしてみたい。でも、この場所だからこそやってくる、自分たちのキャラクターの濃さに気づいていないかそんなことには無頓着なお客さんたちに会えるのも、カフェ・モールならではの楽しみだろうな。そうはいっても、このカフェの中でお客さんよりもキャラが濃いのはたぶんオーナーじゃないだろうか。私が架空のbar forest downに憧れたのは、まさに空間とマダムの佇まいにでした。現実のcafe moleも、オーナーが自からは前に出さない存在感と佇まい、とても良かった。架空も現実も良いなんて、京都は本当に恐ろしいところだ。

秋山菜津子さんのIG https://www.instagram.com/vague_akiyama/

cafe mole information

住所:京都市中京区御幸町二条下る山本町
営業時間:11:30〜18:00
定休日: 火曜日
URL https://www.instagram.com/cafemole/

地図とアクセス
地下鉄「京都市役所駅前」から徒歩7分

 

腰が抜けそうになった京都のコーヒーとドーナツ

京都の六曜社珈琲店でコーヒーとドーナツ。軽い気持ちで足を踏み入れ、腰が抜けて動けなくなる。京都での四時間、六曜社に行ってみたのは、POPEYEの表紙のおかげでした。 京都特集、あえてのドーナツとはこれいかに。 私はプレーンなドーナツとコーヒーの組み合わせが何よりも好き。 台湾での取材でご一緒したカメラマンが撮影したものと知って、ますます出かけたくなったのです。...

 

 

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mimi
ライター/コーディネーター。 香港から猫を連れて台北へ移住後、30年ぶりに東京暮らし。満喫中。 台湾と香港に関する現地情報の執筆や、撮影手配などの仕事をしています。 |Instagram| |Tweitter| |Profile| |Contact|