「台湾女子の話し方には我慢がならない」
と香港人女子が言うのを、何度か聞いたことがあります。
シャキシャキ、グイグイと話す香港人の広東語は爽快で私は好きですが、台湾人女性の話す「国語」の柔らかさも、優しく心地よいと感じます。
普通に話していても「怒ってるの?」と勘違いされる広東語の女性からすると、普通に話しても「なに甘えてんの?」と勘違いされる台湾人女性の口調に鳥肌が立つというのは、普通に話していても「東京の女は冷たいな」と西日本出身の男性から何度か指摘された私には、わかるような、理不尽なような気もします。
イベント前、緊張に震える通訳さんたち
台湾には日本語が上手どころか、語彙が豊富で、日本人の書いたいい加減な文章に公正を入れることができるレベルの人がゴロゴロいます。
ITFの事前打ち合わせで会った数人の台湾人通訳の方たちも、皆日本語のレベルは高いのですが、とてもおとなしく、控えめな印象。イベントの概要を説明すると、無理かもしれない・・・とやや自信なさげだったので、
「大丈夫です!私ずっとついてますし、何かあれば煽りに行きますから!」
と励ましていたのですが、ある企業の通訳の方は打ち合わせ中全く発言なく、挨拶も最小限だったので
(旅行展はお祭りなのに、あんなにおとなしい子がイベント通訳できるのかな、大丈夫かしら)
と少し心配になりました。
本番、通訳さんたちぶっちぎりの大活躍
蓋を開けてみれば、通訳さんたちは大活躍でした。日頃おとなしく、お淑やかに勤めているだろう彼女たちがジーンズで走り回り、重い荷物も軽々と運び、大きな声で呼び込みや説明を的確に行う。
荷物運びなんて私の仕事じゃありません。と言うこともできるはずなのに、厭うことなく自主的に動いてくれて、本当に助かった。通訳は頭も神経も使うしんどい仕事、その上に体も動かして笑顔でいる彼女たちにはもう、惚れ惚れとしました。
金太郎が可愛い女の子に戻る瞬間
で、一番おとなしく、打ち合わせ中に全く発言しなかった通訳さん。マイクを持つとイキのいい、流れるような口調でよどみなく説明をする、観客を巻き込んで煽る煽る。打ち合わせの後、別れ際にも口を真一文字に結んでこちらを見つめていた、きかん気の強い金太郎人形のようだった彼女がここまでやるとは!
最初は呆気にとられ、よーし援護射撃だと私も裏側で呼び込みや動線整理をし、また時々彼女の様子を見守り・・・
イベント終了後に、お疲れ様でした!すごかったねえと声をかけると、彼女は私に齧りつくように
「本当はすごく緊張してたんです!でもあなたがずっと見守っててくれたから!初めてお会いした後で、上司に今年の担当者どうだったと聞かれて、好きなタイプだから大丈夫ですって答えたんです!本当に!」
と物凄い興奮状態でまくしたてる、しゃべるしゃべる。
あの、口も眉も真一文字の金太郎顔で私を見ていた時に、そんな風に思ってくれたのか。いやもうびっくり。
「私は見ていただけですよ。あなたがすごいのよ。本当によかった。」
と宥めたものの、緊張していたんだろう、頑張って頑張ってやり遂げた興奮が堰を切って激流になっているんだろう、見守る誰かがいたことが心強かったんだろう、それを真っ先に伝えに来てくれたのが私も嬉しくて、初めて会った時には想像することもできなかったハグをしました。金太郎ではなく、可愛い台湾人の女の子と。
見せない姿、言葉に秘められた強さと柔らかさに惚れ直しのたうちまわる
働く人の姿には、年齢や性別、職種にかかわらず、見惚れてしまうことがあります。普段優しい男性がキリッと働く男の顔をしているのも素敵だし、優しい、可愛い女性がその強い芯をむき出しにせず崩さずに、柔らかい接客をしているのを見るのもすがすがしい。飄々とした可愛い顔の下に闘志と頭脳を持ち合わせているアスリートや、謎めいたおっとりした華麗な様子からは、想像もつかない努力、努力などという言葉では言い尽くせない壮絶なリハビリを経てステージに戻ってきたアーティスト。見た目や成果、華やかな活躍に憧れてファンになり、本人の意図しないところで裏側の真実を知ると、私の見る目に間違いはなかった、いや私の眼は節穴だった、何も知らなかったこんなに大変なことだったなんて・・・と、のたうち回りたくなることもあります。
おっとりした話し方でも決して信念やルールを曲げずに相手を溶かしてしまう台湾人、しゃきしゃきと攻め込んでいく口調でこちらの遠慮や迷いを取り除き、背中を押してくれる香港人。大変ですと語ることなく、軽やかに駆け抜ける人たち。みんな大好きですという話でした。