30年ぶりの東京生活

東京・中野ブロードウェイは世界中のオタクの聖地と実感した、コロナ明け。

日本へ帰って来て、渋谷や新宿の駅の複雑さと人混みに何度もすくみ上りました。原宿ではちょっと座ってコーヒーを飲むのも至難の業で、遭難しかけるありさま。中学から高校時代にかけて学校にいるより長い時間を過ごした街は、もう私の知っている原宿とは違っていました。でも、中野に帰るとほっとする。よそからくるオタクも一緒になじめる、安心感のある街。

 

中野駅の南口も北口も、変わってしまったところは多い。学生時代には駅周辺に同級生のおうちが経営していたお店がたくさんあったけれど、私が知る限り、今はもう一軒しか残っていません。みんな、親の代で商売を終えてしまったみたい。
それでもまだ、昭和か!と昭和を生きた私たちが内心高らかに歌いながら、安心して歩ける風景が残っています。南口の手芸店は私たちが中学生の頃のまま、タイムスリップしたようで呆然とする。人生で初めて食べたマクドナルドは、中野駅北口から入ったサンモールの左手にまだあります。でも、右手にあった「ストック」はもう影も形もない。下着やパジャマ、ストッキング等を扱っていたストックが閉店した時は、幼稚園から中学までの同級生から、連絡が来ました。中野周辺の女の子たちの多くが、あのお店にお世話になっていたから。
中野の子供には、ブロードウェイの地下へソフトクリームを食べにいく楽しみがありました。中学生の頃、セブンティーンだったか、いつも読んでいる雑誌でブロードウェイのは日本一大きなソフトクリームと紹介されて驚き、謎が腑に落ちました。中野周辺の子供達はブロードウェイの大きなソフトクリームを標準サイズと信じて育つ。だから中学生になり新宿や吉祥寺へ遊びに行き、よその街のソフトクリームを買って「なにこれ、小っさ!」と驚いてしまうのです。これは中野の子供たちが大人になる、自分たちだけでよその街へ出かける年齢に達した時の、通過儀礼だったかもしれません。

香港人や台湾人から、私の知らない中野の話しを聞かされる

一階から三階へ直通のエスカレーターで、明屋書店に行く。これも、中野の頃の当たり前の行動でした。明屋書店で買ったサガンの「悲しみよこんにちは」は朝吹登美子さんの翻訳版、もう一般には出回らないかもしれないから、絶対に手放さず大事にしています。

明屋書店と同じフロアにまんだらけが出来てから、ブロードウェイは地元の人たちだけの商店街ではなくなりました。
香港人の同僚が「みみさん、中野出身ですか?僕、日本へ行ったら必ずブロードウェイに行きますよ」と言い出した途端に私の知らない単語を交えて急に熱く語ってきたり、台湾のあるミュージシャンにインタビューしているとき「中野のラーメン、美味しいですよね。でもいつも帰りに迷う、中野駅の地下鉄乗り場はどこにあるんでしょうか」とたずねられて「中野の東西線は、地下じゃなくて地上のホームなんですよ」と答えたり。地元なのに私の気づかない中野のことを、香港や台湾の人たちから知らされることも度々ありました。

先週、久しぶりに中野駅の北口で降りると、欧米からの観光客と思しき人達が何人もいました。英語でもドイツ語でもフランス語でもない言葉を話している、静かな熱の塊りのような人達。外人のオタクとひとことで片付けるのは勿体ない、知性と好奇心が目に見えない輪のようになっているようで、なんとなく感心して見守りました。あきらかにSNS用の動画撮影のために、軽やかに歩く外国人の女性もいる。あの動画には何語でキャプションがつけられて、どんな人が見るんだろう。
中野通り沿いのミスター・ドーナツでドーナツを買ってメインの通りに戻ると、外国から来た人たちが餡子を挟んだお焼きのようなものを食べながら、アーケードを歩いていました。彼らにとってはこれが日本ならではの味、旅の合間の楽しいおやつなんだろうな。私にとっては、ミスター・ドーナツのオールドファッションが日本ならではの味です。台湾にもミスター・ドーナツの店舗沢山あったけれど、置いている商品はフワフワしたものばかり。ミスドといったらオールドファッションとハニーディップとエンゼルクルーラーでしょう。私は昭和の子供だから定番はこれ以外にないけれど、台湾のミスター・ドーナツでは、その定番を食べることができなかったのです。

身近な神社が、海を越えて来る女の子の聖地

先日、英国から日本へ数年ぶりに帰ってきた友達親子と浅草で待ち合わせて散策しました。小さかった女の子も今では立派な漫画読みに成長していて、東京観光中も背負ったリュックには漫画本がいっぱい。浅草で、彼女の好きな漫画にゆかりの地を歩いたりグッズをみたり、さらに書店に立ちよって、漫画本の追加購入も。海外で日本の本を買うのは高くつくし品ぞろえも限られているから、好きなだけ手に取って選べる環境は夢みたいだろうな。ファンシーな小物より紙の本を欲しがる様子、友達と私の嗜好に連れまわされて蕎麦だあんみつだと古風な店に入っても、買ったばかりの漫画本を早速開いて読みながらあんみつを食べる姿は、クールで可愛かった。スマホで動画やSNSを見られたら寂しくなるけれど、本ならいい、好きなだけ読むといいと、にっこにこで見守ってしまいます。彼女なりに、お母さんと友達、大人のおばさんたちの会話を邪魔しないようにと気を使ってくれたのかもしれないね。

 

彼女の好きな「鬼滅の刃」や「東京リベンジャーズ」、その作品の存在は知っているけれど私はどれも見たことが無くて、東京遊びのヒントになればと付け焼刃で調べてみました。すると東リべに出てくる「グループを結成した神社」は、私も時々お参りしていた中野・沼袋の氷川神社がモデルだと知ってびっくり。西武新宿線の線路沿い、電車の中からも一瞬見ることができる、小さくて清々しい神社です。
今度ふたりが東京へ来たら、その時は沼袋で氷川神社へお参りして、バスで中野まで出ようと提案しました。漫画関連の本やグッズのお店が沢山あるブロードウェイを探検して、地下でソフトクリームも食べよう。中野駅から地下鉄東西線に乗れば、日本橋にも一直線。子供も大人も楽しいルートの出来上がり、ちょっとわくわくしています。

東リべは実写版を配信で見ただけです。日本の若手俳優をずらりと並べて面白かったけれど、現代のすらりとした男の子たちにもいわゆる特攻服状の暴走族ユニフォームが非常によく似合い、さまになっているのには驚きました。それがスタイリッシュに作り込んだものなのはわかります。でも、実物を着ている人を見たのは、それこそ昭和の頃に新宿か、千葉のあたりだけだったかもしれません。幻か都市伝説のようなものが形になって実際に着た人が映像の中で歩いたりしゃべったりしている、不思議。

今回、友達と浅草での待ち合わせは雷門の提灯の下でした。この提灯の裏に彫られている龍に触れると幸運が訪れるらしい、でももう触っている人はそんなにいないかもねと下町育ちの同級生から教えてもらって友達にも伝えたら、行ってびっくり、タイや香港、イタリア語を話す人など多くの外国人観光客が我先にと提灯の龍に手を伸ばし、写真を撮っていました。ここを触ると良いと、もう世界中に知られてしまっているのかな。

提灯の脇に記された卍のマークを、11歳の女の子はじっと見つめていました。「東京卍リベンジャーズ」の正式名称に入っている文字だと、わかったのでしょう。繰り返し読んだ本の中に描かれたものが目の前に現れる、今まさにその体験をしている女の子がいて、私はただその姿を後ろから見守りました。
それにしても、不思議で仕方がない。なぜ昭和のヤンキー文化がいまだにカルチャーに生きて、若い子たちにも漢字の刺繍入りの特攻服が似合ってしまい、海の向こうの子供が物語を追ってくるのか。
「ヤンキーじゃない。不良。」
と子供に訂正されて、友達も私も「はい、すみません」と笑ってしまいました。ちゃんとこまやかに、日本の文化を理解してしている。すごいな。

中野沼袋 氷川神社 公式サイト

 

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mimi
ライター/コーディネーター。 香港から猫を連れて台北へ移住後、30年ぶりに東京暮らし。満喫中。 台湾と香港に関する現地情報の執筆や、撮影手配などの仕事をしています。 |Instagram| |Tweitter| |Profile| |Contact|