佐野洋子さんの絵本「わたし クリスマスツリー」の原画展があると佐野さんのオフィスのインスタグラムで知って、平日の晴れた昼、銀座に出かけました
銀座の教文館9階、子供向けの絵本のフロアの一角にある展示場。
幸運なことにこの時間帯は展示場に私ひとりだったので、絵本のページの順に原画をひとつひとつゆっくり見ることができました。動物たちの瞳の向きやまつげ、森の木々のグラデーション。夕暮れから夜、雪。鉛筆で書かれた下絵や枠をはみ出る絵具。絵はこのように描かれるのかとわくわくしながら眺め、中央に展示されている洋子さんの絵の具や眼鏡、手書きのメモを見て、マスクの中で号泣してしまった。悲しみではなく、感激のために激しく流れ出る涙と鼻水。ティッシュとハンドタオルを持っていた良かった。他に誰もいなくて良かった。
佐野洋子さんの作品を最初に知ったのは、雑誌Oliveに連載していた小説「コッコロから」でした。主人公の亜子ちゃんは当時の私の同世代、私と全然違うけど共感出来て可愛いくて、時には声を出して笑い、「この作者の文章のリズムが好き、なんて面白い人なんだろう」と洋子さんの他のエッセイも読むようになりました。
エッセイには洋子さんの絵が表紙や挿絵に入っていて、「この人があの有名な『100万回生きたねこ』の作者」と知るのは自然な流れ。あの頃も、2023年になった今も、どの本屋に行っても必ず置いている驚異的な絵本です。佐野さんの本はたいてい読んだ。亡くなってから出た特集本は、なぜか二冊も持っている。なのに「100万回生きたねこ」だけは、手に取って読む勇気が持てなくて、本屋でも絵本と目が合わないようにしていました。ねこと暮らしていた私は、ねこの死を描いているらしいこの本を開く勇気を持つ時がいつ来るのかわからなかった。
でも洋子さんの原画展を見て、買って手元に置くところまで心が前進しました。本を開くのはまだもう少し少し先かもしれないけれど、手元に洋子さんの本が増えるのが、単純に嬉しい。
絵本の原画を順番に見て号泣したのは、
「わたし クリスマスツリー」
の物語のなかのもみの木に、自分を重ねたからかもしれない。
あるいは、もみの木の近くにいる鳥や、リスの気持ちだったのかもしれない。
思春期のひとたちにも、大人にも、いろんな角度が見える絵本なのでしょう。季節によって、心や手足、目鼻口にいろんな響き方、沁み方があると思います。
佐野洋子さんのエッセイには、学生時代から交流のあった森瑤子さんのことも書かれていました。瑤子さんに香港旅行へ誘われて断るくだりは、森瑤子のエッセイで描かれるきらめく香港をすいっと避ける様がユーモラスで爽快。瑤子ファンなら承知している、彼女とある男性との別れも、洋子さんだけが知っている場面を、慎重に誰も傷つけずに描いてくれた。悲しみと暖かさの色と匂いが、読む者には伝わるように。そして洋子さんから瑤子さんへの追悼エッセイ。最後のひとことが、すばらしかった。
書くということ、むき出しの丸出しのようでいて、整えられたリズム。ずっとずっと教えてくれている佐野洋子さんの本や絵がいつまでも残っている、残す努力をしてくださるひとたちがいる。ありがたいことです。
佐野洋子『新版 わたし クリスマスツリー』原画展
会場:子どもの本のみせ ナルニア国
銀座 教文館 9階
日時:2023年11月1日(水)〜12月25日(月)
10:00〜19:00
入場無料
URL https://www.kyobunkwan.co.jp/narnia/
佐野洋子オフィシャルサイト:http://www.office-jirocho.com/
「わたし クリスマスツリー」
http://www.office-jirocho.com/work/detail/01/26.html
「100万回生きたねこ」
http://www.office-jirocho.com/work/detail/01/11.html
「コッコロから」
http://www.office-jirocho.com/work/detail/03/19.html
銀座から御徒町へお遣いに行き、都バスを乗り継いで車窓を眺めていたら、絵本を出版した講談社の前を通るミラクル。
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