「グランメゾン東京」は台湾でも放送されて、台北で暮らす友人たちの間でも男女ともに話題になり「フレンチ食べに行こう」「美味しいワイン飲みたい」とわあわあ騒いだ。ドラマにワクワクするのは久しぶりのことで、楽しかった。
女ともだちと話題にしたのは、早見倫子シェフを演じた鈴木京香さんのこと。美しい、可愛い、素敵、衣装やアクセサリーも、あんなイヤーカフスつけてみたい、ふわふわのセーター着てみたい、シックなスカートの着こなしはさすがと、毎回とても楽しみで、彼女に夢中になってしまった部分も大きかったと思う。
ドラマの中で京香さんが演じる倫子さんが身につけていたものに色々ときめいたけれど、私が目を見開いたのは第五話で一瞬映ったビニールのバッグ。香港で「紅白藍」と呼ばれる、荷物の運搬に使われるものだった。
これは香港の文房具店や五金と呼ばれる金物屋、日用品店の店先で、無造作に売られているもの。その名の通り赤、白、青のチェック模様で、武骨な手触りのプラスチック繊維でできている。
私もひとつ持っているけれど、これを持ち歩くと国境越えの密輸業者のように見えるのではないかと心配で、外で使ったことは無い。もっぱら家のなかで、大き目の書類などをまとめる収納に使っている。
倫子さんが「紅白藍」を持っていたのは、フードフェスに到着した場面。微妙な色違いを二枚重ねて、カジュアルなデニムスタイルの倫子さんが持つと、これまで私が(たぶん香港で暮らす人たちも)「紅白藍」に抱いているイメージや先入観をくつがえされてしまった。ただ荷物を放り込んで運ぶ頑丈な入れ物ではなく、しっかり仕事をするけれど遊び心と品もあるバッグ、頼もしいツールになっていたから。
京香さん演じる、大人の甘さと苦味も飲み込んでいるしなやかに強い倫子さんが持つから、紅白藍にそんな説得力が生まれたんだと思う。品よく見えるのは、色違いの二枚使いで、中身を沢山詰め込み過ぎないのも大きなポイントかな。香港界隈で実用的に使う「紅白藍」は、ふくらみきったものを引きずるように持つことが多いから。服装はカジュアルに、でもだらしなくないことが大事。
「紅白藍」を倫子さんの仕事バッグに選んだスタイリストさんは、どんな風にこれを見つけたんだろう。とにかく、百万の「GJ!!」と「多ーーー謝ーーー!!」を送りたい。
香港、京香さんと言えば、実は本物の彼女を見たことがある。
もう何年も前のこと、彼女が香港で出席したドラマの記者会見に、私は友達と一緒に潜り込んだ。共演が当代きってのアイドルなせいか厳戒態勢、マスコミ席も日本チームと香港チームが会場の左右に真っ二つに分けられていた。私たちをこっそり中に入れてくれた人からは、「香港側に座って。絶対に日本語に反応しないで、香港人のふりして」とまじめに釘を刺された。私たちは香港マスコミ席で息をひそめ、京香さんの大人のおおらかさや美しさにボーっとなりつつ、お話しされていることにはダイレクトに反応しちゃいけない約束だから広東語に通訳されるまですまし顔で我慢した。外国のマスコミの前で緊張している俳優の中で、京香さんの明るくリラックスした振る舞い、本当に素敵だったな。
京香さんに憧れるのはわたしの勝手だけど、どこも真似できる要素はないのも重々承知している。だからせめて、彼女が演じた倫子さんのように、「紅白藍」を品よく、仕事の相棒として持ち、可愛く使えるようになりたいな。紅白藍も、香港文化を代表するもののひとつだものね。次の香港行きの楽しみは、紅白藍を新調することできまり。