新型コロナウイルスの検疫で、台湾や香港は指定地域からの帰国や入境者を14日間、自宅や施設などに隔離している。
それでも大人しくしていられず、逃走、失踪したひとたちも何人かいた。何か事情があったり、どうしても会わなければならない人がいるのかもしれないけれど、検疫中に逃亡したり、虚偽の申請をすると罰金刑が待っている。今日も、台湾で検疫していた女性が逃亡し、確保されたとニュースで見た。あと二日我慢すれば検疫が終わり大手を振って自由になれたのに、彼女には罰金15万元が科せられる。
感染の不安の中で二週間、生活や仕事のある人間が隔離されるのはしんどいことだと想像はつく。好き好んで家にこもり、読書や動画三昧、ゲームし放題の日々を楽しむのとは違うから。
人間とは比較にならないけれど、私の猫も狂犬病対策で3週間隔離された。香港から台湾への移住、猫を連れてくるのは、人間のビザ手続きよりももっと時間と手間がかかった。狂犬病予防のために半年以上かけて予防注射や血液検査をくりかえし、台湾の検疫所から「来て良し」とお墨付きがあっても、香港とアメリカ本土から台湾に来た犬や猫は、台北桃園空港に到着してすぐ、指定の動物病院で隔離検疫が義務付けられていた。
空港からは、検疫官も付き添う厳重さ。香港の公園出身、飛行機に乗るのは生まれて初めてだった私の猫は、これから暮らす台北の街を走る車の中で激怒していた。
台湾大学付属の動物病院に入る手続きをする時、私は泣き落としをかけてみた。台湾の人は優しい。情に訴えれば病院での隔離ではなく、自宅検疫になるかもしれない。その可能性にかけて訴えてみた。
「うちの猫は狂暴で、香港時代も動物病院から『今すぐ引き取りに来て』と毎回追い出されるほど大騒ぎします。きっと他の猫ちゃん達は怯えて、可哀想なことに」
私はつたない、香港なまり丸出しの中国語で必死に説明した。
香港の動物病院で去勢手術をした後、麻酔がさめたうちの猫は檻の鉄柵にガンガン頭をぶつけて怒り狂い、額から流血して牙剥いて絶叫していたんですよ。動物病院から電話が来て、今すぐ引き取ってくれと懇願されたんですよと説明する中国語力は、私には無かった。
「だから、検疫所に入らず、自宅隔離ではだめですか?毎日報告しますから」
けれども動物病院の方は爽やかな笑顔で
「狂暴な猫ちゃんには慣れているから、大丈夫です!安心してください」
そうしてうちの猫は3週間、動物病院の檻の中で過ごした。3週間、私は買い込んだぬいぐるみを触りながら、毎日泣いて暮らした。香港から台北に引っ越して、新しい仕事、新しい生活を始める不安は全くなかった。ただ、猫が傍にいないことが寂しく、檻の中に閉じ込めているのが申し訳なかった。
3週間の検疫中何度か面会に行き、晴れて娑婆に出られる日に「アニキ、お勤めご苦労様です」とベンツではなく新しいキャリーを抱え、勇んで迎えに行った。病院スタッフの方はうちの猫の入っているゲージから離れた部屋の隅っこに固まって立ち、こちらの様子をうかがっている。相当暴れたんだろうな。「慣れていますから」と言った人でさえ、こちらをこわごわ見ている。ゲージを開けてもらい、猫に持参したキャリーのドアを開いて
「福ちゃん。おうちに帰ろう」
声をかけると、檻の中でむすっと座り込んでいた猫は立ち上がり、自ら進んでキャリーに入った。様子をうかがっていたスタッフの皆さんがほっとため息をつき「自分からキャリーに入るなんて」「一緒に帰れるとわかったんだね」と感心したように言った。
3週間の検疫のあと、私は今まで以上にうちの猫に愛情を感じている。猫も、私にそれなりの愛情を示している気がする。検疫で離ればなれになったあと、気色悪い言い方をするなら「ラブラブ度が増した」というところか。
「会えない時間が愛育てるのさ」
安井かずみさんが書いた詞が、郷ひろみさんの声で耳に蘇るようだ。
人間と動物の検疫は違う。でも、今離れ離れになっていたり、会えない時間を堪えている人たち、大事な人が自由になった後にもっと愛情が深まるよう、もっと大事に思い合えるようになることを願っています。
待っている人などいない、迎えに来る人もない情況の方も。自由と健康、ご自身を愛して、これから沢山良いことがあることを願っています。
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