長年暮らした香港から台湾・台北へ移住したのは、自分ですき好んだことでした。暮らした年数が長い香港を基準に考えてしまうと、台北で「なぜ」「なにゆえに」「どうしてそうなった」と戸惑う場面はあっても、困り果てるほどではありません。
一般的に、中国語を習うならいわゆる北京語、台湾でいう「國語」から入るべきだと言われます。広東語から入ってしまうのは、我が強いケース。自分でそう思います。
広東語の先生に「先に北京語をやった方が良いんじゃないの」とやんわり勧められた時、「いえ!広東語を勉強したいんです!」と私は張り切っているだけで、将来必要になるとは考えませんでした。
先に広東語を話すようになった日本人が、その後に國語を学びだす。
「同じ中国語だし、カンみたいなものはあるんじゃないですか?」
と、前向きな人には言われます。
そうねえ……中国語のカン、それは広東語で身に着いたかもしれない。でも、私の場合「日本語なまり」以上に「広東語なまり」という強烈なハンデも背負ったという実感のほうが強いです。
なまりのことは置いといて、香港と台湾で、全然違った単語のこと。
香港で覚えた単語を広東語から國語の発音に直せば通じることもあるし、まるっきり通じない場合もあります。
「どのくらい違うの?」と時々たずねられるので、「地下鉄」「オレンジジュース」「いちご」の例で紹介します。読み方は拼音は併記せずに平仮名で書きますので、興味のある方はお調べになってみてください。
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地下鉄を「地鐵」から「捷運」に言い直す
地下鉄を、香港では「地鐵」と言います。台湾では「捷運」。そもそも単語が違います。「地鐵」を広東語の「でぃてぃっ」から國語に「でぃーてぃえ」と発音に置き換えていうと、相手が察しの良い人なら「この日本人は<捷運>のことを言っているんだな」と話を合わせてくれます。でも、みんながみんな、そうではない。
多くの日本人が台湾で「悪気はないかもしれないけど、あれはちょっと感じ悪いよね…」と眉をひそめる
「ハァ?」
を返される可能性があります。悪気はないんだよね。台湾の中国語の中で出てくる場合、日本語のそれとは、ちょっとニュアンスが違うだろうし。
私は香港で散々、もっとあからさまに毒の強い
「ハァ?」
をやられてきたので免疫があり、台湾の「ハァ?」で動揺しません。とはいえ、いつまでも相手に「外国人だから、言いたいことを察してもらう」のを期待するのは良くないので、地元の言葉を覚えるに越したことは無いでしょう。
「子をつければいいんだ」と香港人に耳打ちされる
「國語では<子>がつければいいんだ」と、教えてくれた香港の友達がいました。グラスは「杯子」。お茶碗は「碗子」。広東語では「子」はつけなかったので、なるほどなと思う。でも、テーブルは違ってた。広東語の「枱」を國語の発音にして「子」をつけても通じず、「桌子」と覚えなければなりませんでした。
台湾でオレンジジュースにたどり着く
台湾で一番戸惑ったのは、オレンジジュース。
中国語で書かれたメニューを上から下まで読んでも、それらしきものが見当たらない。広東語の「橙汁」を國語の発音で言ってみても通じない。悩んでいると「柳丁汁のことじゃない?」と助け船を出してくれた人がいました。
「橙(だいだい)の汁」なら、オレンジジュースと日本人にもわかりやすいです。しかし「柳丁」とはなんぞ。
台湾の街中にある屋台やジューススタンドで、山積みになっている柳丁。ふたつに切ると、中は鮮やかなだいだい色。もともとは「柳橙」という台湾みかんが「柳丁」と呼ばれ、オレンジジュースを「柳丁汁」と呼ぶようになったそうです。
「柳丁汁」か「柳橙汁」、マンダリンオレンジの「橘子」と表記する場合もあるので、これらを覚えておけば、台湾でオレンジジュースにたどり着けるようになりました。
ちなみにマクドナルドで比較すると、
香港「飲品:橙汁」
台湾「飲料:柳橙汁」
「飲み物」の言い方も「飲品」と「飲料」、違っています。
さらについでに、マクドナルド「麥當勞」表記は同じ。発音は、広東語の「まっどんろう」のほうが國語の「まいだんらお」よりもマックらしさを私は感じます。
香港のストロベリーは当て字で「夜露死苦」風
オレンジに関しては、字面では香港の「橙汁」のほうが台湾の「柳丁汁」よりわかりやすい。
一方、いちごの場合、台湾ではストレートに「草苺」。香港では「士多啤梨」と書いて「しーどーべーれい」ーー「ストロベリー」の広東語当て字です。覚えた当時は「なるほど、英語が公用語だけあって、こうなるのか」と、気にもとめませんでした。
でも、台湾の友達と香港へ行き、メニューを見て「これはなに?」と尋ねられて「そうだよねすごい当て字だ」と改めてびっくりしました。「士多啤梨」と書いてストロベリー、「夜露死苦」風。
そんな感じで、香港広東語の習慣を引きずってきたために、台湾の國語に慣れるまでは密かに戸惑い、立ち止まって考えたりながら暮らしていました。でも、生活面で「なんでこうなった」と笑ってしまうことはあっても、「香港ではこうだったのに。なんで台湾は違うんだろう」とイライラしたり、嘆いたりすることは無いです。
台湾の香港人、話し方そのものが変わってくる
台湾から香港へ電話をかけて広東語で喋る時「ああ懐かしいこの勢いこの感じ、これが本当の広東語」と思います。香港で聴くよりも、電話でダイレクトに耳に届くと、より強くそう感じる。そして、台湾で暮らしている香港人の広東語は、妙に優しいとも。まるで、ちょっと声をひそめているみたいに。
「広東語はうるさがられるから…」と遠慮してるのかとも思ったけど、香港人、そんなタマではあるまい。香港から台湾に来て気づいたのは、単語や発音だけではなく「話し方そのもの」も変わってくるのかもしれないということでした。
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