どの国や街へ行くにしても、ホテルはチェーン展開しているような大箱よりも家族経営のような、小さなホテルに泊まりたい。
ドイツでもいくつか泊まった結果、ふたつの街に、それぞれひとつ定宿が出来ました。
4月に泊まったのはそのうちのひとつ。好きなレストランがある街で見かける、エントランスの花のアーチが可愛いなあと眺めていたホテルです。
Contents
定宿選びのポイントその1「大箱、小箱」選定から
私のドイツ旅行はサッカーの試合と練習見学がメインで、観光はほとんどしません。
それまでは、サッカークラブの拠点に近くて日本人や旅行者にとって便利で大きな街、デュッセルドルフに宿をとり、そこから列車とトラムを乗り継いで車内でビール片手に出来上がっているおじさんたちに揉まれながらスタジアムへ行きました。
でも、スムーズなら片道一時間弱、乗り継ぎが悪かったり、相手サポが荒れたりしたらホームに上がれず足止めを食らって二時間以上かかってしまうこともありました。
定宿選びのポイントその2.サッカー観終わって帰る時間
チャンピオンズリーグは平日の夜8時過ぎにキックオフ、試合が終わってから騒動に巻き込まれて列車の中でも生きた心地がしなかった。
デュッセルドルフに戻れたのは夜中になってしまったこともあり、こんなしんどいのはもう嫌だなあと、次の年にはスタジアムの横にある、大きなホテルに泊まってみました。
綺麗な部屋、きちんとした対応で良いホテル。だけど朝食の種類のそっけないこと、つまらないこと。
係の人が目配りして話しかけてくれる小さなホテルのほうが、温かくて新鮮な朝食を楽しむことができる。「やきそば」「めだまやき?」と片言の日本語で勧めてくれるのも嬉しかったし、テーブルコーディネートも好きだったなあと改めて思いました。
でもやっぱり、夜遅くに電車で怖い思いをしながら帰るのは面倒くさい。
ということで、スタジアムから中央駅とは逆方向の小さな街の、好きなレストランの近くのホテルに泊まってみることにしたのです。
ドイツのホテルは古くても新しくても、大きくても小さくても、どんなところでも隅々まで清潔で、お湯もたっぷり出て居心地が良い。
でも、今回その大事なバスルームに異変がありました。
ドイツ人のおじさんとジェスチャーで会話
泊まって二日目、エレベーターへ向かう時レセプションの女性とお爺さんが
「ああ!あなたは!20号室の!」
と慌てた様子で私を呼び止めた。
「はい私は20号室にいます」
と答えると、女性はゆっくりとしたドイツ語であなたの部屋のバスルームに問題があって、入る時に気をつけなければならない。と言っているようだ。
・・・と私が考えていると、女性とお爺さんは声をそろえて
「壊れている」
「壊れている?」
聞き返すと、お爺さんがまたドイツ語で説明しながらドアを開け、注意深く大股で跨ぐようなゼスチャーをした。私はアハハと笑ってしまって、でも一応
「シャワーは使えますか」
と確認すると、使える、でも気を付けてとのこと。
部屋に戻ってすぐバスルームを見てみると、ドアの内側がこのようなことになっていました。
それからチェックアウトの日まで、私はお爺さんの教えのとおり、バスルームには大股で跨いで出入り。そのたびに「フフフ」と笑いがこみあげて楽しかったです。
小さなホテルは少し不便で暖かい
小さなホテルでは、部屋に湯沸かしポットがない。レストランも朝食専用で、昼前には閉まってしまいます。
でも、近所の人が集まっている時は気まぐれに開いているようで寒かったその日、午後にも朝食レストランのドアが開いていて、覗いてみると、件のおじいさんが。
「お茶を貰えますか」
と尋ねると、お爺さんは「勿論」といってガラスのカップを用意してくれ、コーヒーマシンのお湯ボタンをいじっていたけれど、すでに電源が落ちて時間がかかるからと、キッチンに入ってお湯をわかしてくれました。
「砂糖は?」
「いいえ、いりませんありがとう」
「レモンもあるよ」
「はい、いただきますありがとう」
簡単な会話。でも嬉しかった。こういう時もっと色々話せたらいいのにな。
旅の至福は「私ここでなにしてるんだろ?」と思う時間
土曜日の夕方や日曜日になるとお店というお店が休みになってしまい、珈琲を買える場所を探すのも一苦労する小さな街。不便かもしれないけれど、静かな、人が休んでいる気配というのは、とても好き。
夕方に試合が終わってホテルのある街に戻り、トラムの停留所の前に出ているホットドッグ屋さんで笑顔の優しいおじさんからひとつ買ってホテルのエントランスの、花のアーチの下のベンチに座って食べます。
広い空を眺め、近くの教会の鐘の音、遠くで酔った人たちが歌うチャントを聞きながらホットドッグ美味いなーと喜び、何やってんだろうなー私。と思うとき。
でも、好きな街でその街の簡単なものを食べて街の音を聴き、空気を胸いっぱい吸い込んで夕焼けを見るのが、とても幸せでした。