台北「香港大家好港式粥粉麵飯」我が道を行く、香港人の食堂

食べ終わってから「持ち帰りできる糖水もある？」と尋ねると

おかみさん「あるよ」

おやじさん「ないよ」

同時に左右から違うことを言われて、笑ってしまった。
この感じ、香港あるある。
バス停の場所をふたり連れに尋ねたら、ふたり同時に反対方向を指さしたり、全員が違うことを一斉にしゃべりだしたり。
香港人の我が道を行くマイペースさ、しかも全員同時に勝手なことを喋りだす絶妙なタイミング。こちらの常識や予想なんておかまいなし、我が道を行くリズムと間合いが可笑しくて笑い転げると、真顔で「何がそんなに可笑しいんだ」と訝しげにする香港人たち。この感じ、久しぶりだ。
「で、どっちなんですか？」と笑いながら確認すると、おかみさんが勢い込んで「あるってば」。おやじさんはとぼけた感じで「あ、そお？」。ますます笑いが止まらなくなってしまった。

おかみさんにたずねると、この店はもう十数年やっているのだそう。
「ここは大通りから少し入るから、気づかないかもね」
と言っていた。
分かりにくい場所で、愛想が無いとマイナスをつけられて、それでもここで十数年続いている。台湾に長くいる香港人は、あまり大声では広東語を話さない人が多い。あたりをはばかるように張りの無い、潜めた声や、國語訛りに引きずられたような発音になっている人も時々いる。でも、この店のおかみさんとおやじさんは何年いても、香港の広東語を喋っていた。台湾に染まらず和らがず、我が道を行く香港スタイル。良いなあ。好きだなあ。

「また来ます」と言うと、おかみさん笑って「好呀」。ありがとうでも、ぜひにでも、またお待ちしていますでもなく、「いいわよ」。台湾で言う「好（ハオ）」とは、語気とニュアンスがちょっと違う。対等で、時には上からで、ツンデレで力強い、香港人の「好（ホウ）」。良いなあ。広東語、香港人のものの言い方。やっぱり好きだ。

しゃれっ気も愛想も無いお店。古き良き香港の食文化を云々なんてことも、多分考えてないと思う。でも、この「大家好」は台湾で今まで食べたどの店よりも、香港らしい空気を感じる。こんなお店が、香港の街のあちこちに、いくつもあった。近所の人たちや通りすがりの人たちが、ぶっきら棒に行き交う、ごく普通の町の食堂。

香港は香港人がいるから香港なのだと、改めて思う。世界中で香港人だけが持つ空気とリズム、間合いと話し方。台湾の和やかさにも、飲まれず染まらず、どこに居ようと我が道を行く、香港人のスタイル。
（そういうの、好きだなあ）とニヤニヤしたら、
「何で笑っているんだ？」
と、また怪訝な顔されるだろうなあ。

香港で、ニヤニヤしたいなあ。