映画「恋する惑星(重慶森林)」にも登場するTWEMCOの時計を、大角咀へ買いに行く
1956年創業、メイドイン香港の時計メーカー「TWEMCO」のフリップクロックを買いに、香港・九龍サイドの大角咀にある工場兼オフィスへ行ってみました。
パネルがくるりと回るFlip clock、中国語では「翻頁鐘」。「TWEMCO」の時計はあちこちで目にしていて「可愛いな」と思う反面、「意外と値が張る」と躊躇してしまい、店頭で見かけても購入には至りませんでした。
公式サイトや販売サイトを眺めると、小さな置時計から業務用の壁掛け式、カラーもさまざま。
可愛いけど、実際はどのくらいのサイズなんだろう?
ウエブカタログにも、各モデルの様式は記載されているけれど、使い捨てる気のないものだから、ちゃんと手に取り、この眼で確かめてから選びたい。
香港に日帰りで出かける用事が出来たので、工場兼オフィスを訪ねてみようと思い立ちました。
いきなり行っても業務の邪魔になってしまう恐れがあるから、念のため台北から香港へ電話をかけて確認。勢いのいいおじさんが「ウェーイ?」と出てきて、私の問いかけにも親切に
「販売するよ。お昼時はスタッフが休憩するから、それ以外の時間帯で来るといいよ」
と教えてくれました。
台湾で、仕事の電話をすると大抵柔らかい話し方が返ってくるから、弾むようなリズムの広東語を話すおじさんとの短い会話だけで
「うわ香港だ」
と妙に新鮮です。喜び勇んで、大角咀エリアに出かけて行きます。
Contents
半世紀の歴史をもつTWEMCOオフィスは大角咀・鉄筋関係の工場街、工業ビルの中
公式サイトによると、TWEMCOは世界で唯一の全自動フリップフロック専門メーカー。1956年からカレンダーデジタル時計の開発をはじめ、特許も取得しているそうです。
正確さを必要とする銀行や商社、政府機関でも使われている信頼性と、どこか懐かしさも感じるデザインで、インテリアとしても人気があるみたい。
王家衛(ウォン・カーワイ)監督作品の映画「恋する惑星(重慶森林)」でも、このTWEMCOの時計が何度か登場する場面があります。パネルが回る音、印象的だった。
オフィスの場所はMTR太子駅から徒歩10分弱。近くに友人の家があり私も時々遊びに来ていたこのエリア、写真集のロケをしたこともある街中の工業街です。
ぼーっと歩いていると、鉄板を打つ音のショックで耳鳴りがしばらく続くようなところ。
周辺の写真を撮るのに夢中になっていたら
「どけや姐ちゃん!死にたいのか!」
とトラックの運転手に怒鳴られました。
最近の香港は穏やかな人が増えたなあと思ってた。でもここは、「ぼーっとしていたらケガをする」香港ならではの緊張感がくっきり残っている街。
やっぱり香港こうでなくっちゃな!
TWEMCOの入っているビル「長發工業大厦」は、その名の通り工業ビル。中文の住所では3樓、英文では2Fという香港ならではの住所表記はエレベーターのボタン「2」にあたります。
エレベーターを降りるとホンコン・グリーンとでも呼ぶべきか、濃いめの緑色のタイルの廊下、これでもうワクワク感が急上昇。
エレベーターを背に向かって左側、「大驊晶工實業有限公司」と看板が出ている鉄格子のドア(これもまたワクワク感の要素)から中を覗いて
「こんにちは」
と声をかけると、デスクワークをしていた女性が顔をあげ
「時計を買いに来たの?隣の部屋へ行ってみて」
と教えてくれました。
「あれも見ろこれも見ろ」ずらりと並んだTWEMCOモデル、現場作業の「メイドイン香港」フリップクロック
「こんにちは。時計を買いたいのですが…」
何に使うのか全く見当のつかない大きな古い機械の前に座っていた男性に話しかけると、さらに奥のオフィスに声をかけてくれました。出てきたのは劉さんという男性。
「時計?あるよ。まあそこに座って」
オフィスの片隅の丸テーブルを囲んだ椅子を勧められ、あたりを見渡していると劉さんがカタログを持ってきてくれました。多分この方が、電話対応してくれた人のような気がする。
カタログをめくりながら
「これもいいな、あれもいいな、可愛いな!これはブルーですか?」
「グレーだよ。写真の光の加減で青く見えてるの」
「そうなの?」
この適当さ、好きだなあ。
「見たいの言えば、持ってくるよ」
「じゃあこれとこれをお願いします。もう少し小さいのありますか?」
「あるよ。両方持ってくるよ」
「ありがとうございます」
「色は?」
「白とグレーと…」
「オレンジも持ってくるよ」
現物を見たいとは思っていたけれど、「これはどうだ」「これもある」次から次へと商品サンプルを見せてくれる劉さんの熱意と親切さは予想外でした。自社製品への愛と自信がなせることなんだろうなあ。
写真を撮っても良いですかと尋ねると「好きなだけ撮りな」「こっちにアンティークのもあるから撮れ」と、時計を組み立てている工場室の奥まで案内してくれました。
「ここで手作業で作っているんですね。こちらの皆さんの写真は、都合良くない?」
「うん、それは駄目」
お仕事中のところをあまりジロジロ見るのも悪いから横目でちらっと見るだけだったけれど、
「本当にメイドイン香港なんだ…!」
と胸いっぱいになりました。
日付と曜日のパネル表示言語、時間表示もカスタマイズができる
オンラインショップで見て「これがいいな」と目を付けていた置時計は思いのほかサイズが大きく、私の部屋には馴染まないような気がして断念。結局、こちらで一番オーソドックスな「曜日」「日付」フリップつき時計を選びました。
「フリップの言語はどうする?」
「サンプルもカタログも英文だけど、確か中文表記もありますよね?」
「あるよ。好きなのを選べばそれで作ってあげる」
「じゃあ、せっかくだから中文でお願いします」
しかし奥の作業所へ確かめにいった若いスタッフの男性は困り顔で戻ってきて、
「中文はもう無いって」
「あら」
「いつできるか、今はわからない」
これには劉さんも驚いた様子だったけれど、在庫切れでも誰も謝ることはない。私もそれは期待しない。中文がないのは予想外、電話確認しただけで予約なしで来た一般客に対応してくれる、今この状態が縁。今あるものにするのが面白いような気がしました。
「それなら仕方ないですよね…あとは英語表記?」
「何語でもあるよ。ドイツ語、オランダ語…」
「日本語も?」
「無いよ」
「じゃあドイツ語でお願いします」
「なんでドイツ語?」
「月と曜日なら読めるから…」
「時間表示はどうする?am、pm表示にするか、24時間か」
「24時間が良いです」
フリップも細かくカスタマイズ出来るとは知らなかった。オフィス兼の工場だし、さっと行ってさっと買う程度に考えていたから、そこまで対応してくれるとは思いもよりませんでした。
ものの数分で、出来上がり。劉さんは私に時計を見せながらあちこち確認し、時計の裏のスイッチでパネルをめくる方法のほかに、「うるう年」の設定も調整できると教えてくれました。
発泡スチロールのカバーをつけて段ボール箱梱包し、TWEMCOオリジナルのショッピングバッグに。支払いは現金です。
「これからどこへ行くの」
時計を入れたバッグを肩にかけてお暇しようとすると、劉さんに尋ねられました。
「ガーデンの本社、まだ取り壊してなければ見に行きたいです」
「歩いていくのは少し時間がかかるよ。地下鉄だと一駅だけど、駅から歩くな」
「深水埗をぶらぶらしながら行ってみます」
「タクシーを呼んであげようか?」
「いいえ、ありがとう」
車を呼んであげようか?
いいえ。ありがとう。
王家衛の「欲望の翼(阿飛正傳)」に出てきたセリフ。覚えて何度も使った、日常の会話。あの映画も、時計と時間が物語の鍵でした。
久しぶりに聞いて答えて、香港やっぱりいいなあとニヤニヤしながらビルを出ました。浮かれて歩いたせいか、またトラックにあおられてしまった。「TEWMCO」に来るときは、周辺をよく見て歩きましょう。
“TWEMCO” Shop Data
TWEMCO Industries Limited
大驊晶工實業有限公司
住所:
Flat 2-5, 2/F, Cheung Fat Industrial Building, 64-76 Larch Street, Tai Kok Tsui, Kowloon, Hong Kong
香港九龍大角咀洋松街64-76號 長發工業大厦3樓 2-5室
※エレベーターでボタンは「2」の階です。
電話:852 2396 0775
営業時間:月~金 9:00~13:00、14:00~18:00
※サイトやGoogle Map等には17:00までとなっていますが、会社自体は18:00まで営業、対応可能とのこと。17:00頃までには伺ったほうが良いでしょう。
支払い:現金(香港ドル)
アクセス:MTR「太子」駅C2出口から徒歩9分
日本語:「簡単なことなら」とのこと。
URL:http://twemco.com/
販売サイト:
公式オンラインショップ
日本代理店
台湾代理店
※店舗情報は訪問、掲載時のものです。利用前に公式ページなどで営業状況を確認してください。
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