日本で暮らしていた時も、台湾に来てからも、警察のお世話になったことは一度もありません。通報する必要のある場面すらありませんでした。
けれども、香港にいた19年の間は常に街の中で警察官に出くわしたし、身分証をチェックされたことも、警察を呼んだこともありました。
良くも悪くも…だったけれど、今でも覚えていることを書いておきます。
「猫は見つかった。安心しなさい」わざわざ連絡をくれた香港警察のひと
香港に住んでいた頃、自宅を出たところで事件に巻き込まれ大けがをしたので、部屋に戻って救急車を呼びました。
数分後に救急隊と警察がどっと私の家に来て、ストレッチャーに載せられて搬送される時
「毛布をかぶったほうがいい。下に記者が沢山集まってるから」
と言われました。
それまでも、事故現場に即座に現れスクープを撮る記者の耳の速さが不思議だったけれど、救急などのコールを傍受しているという噂は本当だったのかな…
それよりも私は、飼い始めたばかりの猫、福ちゃんの姿が見えないのが気がかりでした。
「猫がいなくなっちゃったんです!」
運び出される間際に毛布をはねのけて叫ぶと
「探しておくから!」
私の部屋に残っていた誰かが、すぐ答えてくれました。
担ぎ込まれた病院で、私の傍にいてくれた警察の人が電話を受けたあと
「猫が見つかったと連絡が来たよ。たんすの中に隠れていた。安心しなさい」
あのたんすの中を見られたのね…というのは後から気が付いたこと。その時はただ安堵して、
「ありがとうございます、阿Sir」
とお礼を言いました。
香港で、警察官を「阿Sir」「Madam」と呼び掛ける。映画やドラマの中だけではなく、普通の(異常事態だったとはいえ)生活の中でもありました。
私が「阿Sir」と呼ぶ時、はっきりと敬意をもっていた。
あの時救助してくれた方たち、担当してくれた警察の人たちが誰なのか、もう全然わからないけれど、わざわざ猫が見つかったと連絡してくれる優しさに、感動したことは忘れません。
2019年の香港で、様々なニュースを見て、ひとびとの声を聴くたびに、あの時私が阿Sirと呼んだは人たちは今どこで、何をしていて、何を思っているだろうと考えてしまいます。
香港では、飛び跳ねる仔猫の後について路地裏に入ったら警察官に追いかけられたこともありました。