台湾でノービザ、90日ごと出入境を繰り返して生活拠点は作れても、マスクは買えない?「ビザラン」という暮らし方に、香港でオーバーステイした私が思うこと
2020年の3月19日、台湾をはじめ、世界中が事実上の鎖国みたいになった。新型コロナウイルスのばかやろう。でも、世界中の澄んだ空やあちこちで咲きみだれる花々を見る機会は増えた。そこんとこだけは許してやる。
世界中のドアが閉じる音、聴こえないのにとても大きく響き渡ったみたい。台湾からどこへも出られなくても、中にいることは出来る。台湾政府のマスク実名販売制度では、外国人も台湾の居留証を持っていればマスクを購入できるから、不安はない。
そこでふと「ノービザで台湾に住んでいるひとたちは、マスクをどうやって調達しているのだろう」と疑問がよぎった。
90日間のビザ免除期間を利用して出入境を繰り返し、台湾を生活拠点にしている人は少なくない。新型コロナウイルスの影響で世界が国境を閉じた今、「ノービザ」で海外に拠点を置く人たちが不安を抱いているとも聞く。ノービザで国境を行き来して続ける暮らし方を「ビザラン」と呼ぶのだと、初めて知った。
「あの人ビザ持ってないのに、もう7年も台湾に住んでるんだって」
台湾でそんなヒソヒソ話が回って来ると、大抵のひとは「ふーん…」「ああ、ねぇ」と多くは語らず眼を細め、微妙な表情をする。「えええええっ」と大声で反応するのは、私だけだった。
旅行者として入境し住む部屋を借り、「台湾在住者」としてSNSの発信もする「ビザラン」のひとたちの大胆さに私が驚くのは、以前暮らしていた香港で、ビザやIDカードの重要さが身に染みていたから。
「そこに留まる資格がない」と気づいた時の絶望感
私は香港で「うっかり」オーバーステイしてしまい、啓德空港の移民局オフィスに連行され、笑われた。当時の滞在ビザの延長手続き費用150ドルを払うだけで済み、ペナルティはなかった。「またすぐ戻っておいで、香港へ」と職員の人たちに笑顔で見送られ、事無きを得ている。それでも「自分がオーバーステイしている」と悟った時の恐ろしさ、絶望感は忘れられない。香港では不法就労、密告、強制退去は映画やドラマの題材にもなったけれど、身近な出来事でもあった。ある日突然、香港にいられなくなった日本人も、私が知っているかぎりでも何人もいる。密告者が誰なのかも、ほぼ100%はっきりとわかっていた。それもぞっとすることだったな。
職質される香港、フリーパスの台湾
香港で警察官に職質されると、私は「シャー」とありもしないたてがみを振り回す気分になったことを覚えている。
普通に暮らして街を歩いているだけなのに「香港の身分証、滞在ステイタスを証明しろ」と詰め寄られると
「やあやあ我こそは真面目にコツコツ納税しながら就労ビザを更新し続け7年居住の満期完了、正真正銘、香港永久居民なり」
高らかに口上を述べる。ほとんど喧嘩腰だった。そのくらい、そこにいる権利を疑われることが悔しかった。
だから90日ごとに出入境を繰り返し、ステイタスを証明する身分証も持たずに外国で生活し続ける「ビザラン」のリスクと緊張感に驚いてしまう。時代も場所も違うから、「考えすぎっすよー」かもしれない。でも、怖かった記憶は、時代や場所が変わっても、簡単には消えないものなの。
とはいえ、台湾で居留証を葵の御紋のようにかざす機会はない。街中で職質をされることも全くない。台湾から強制退去になった日本人の話は、聞いたことがない。7年だろうが10年だろうが行ったり来たりするのも合法なのだろう。平常時なら、どの国でも特に困ることは無いのかもしれない。
ビザランが可能なのは平和な証拠
とはいえ、今回の国境封鎖で「ノービザで海外に拠点づくりや長期滞在」の危うさを実感した。
非常事態では、この場所に留まりなさいと滞在国の政府から守られる対象から外れてしまう。マスクを買う資格もない。こんな状況は誰も想像しなかったから、ビザランで帰国せざるを得ない状況になっても、失敗や甘さとはいえないだろう。情勢が落ち着き国境が再び開かれたら、ノービザで海外に暮らす「ビザラン」生活に戻る人も多いのだろうか。これからも、台湾ならなんとかなるのだろうか。
今日、台湾当局は、入境済みの外国人へのビザ延長対応を発表した。
台湾、入境済みの外国人に配慮 ビザ期限を一律30日間延長
ノービザではマスクを買えなくても、台湾なら、きっと親切な人から分けてもらっているだろうと私は想像している。ビザランができるのは、平穏や平和の象徴なのかな。
どんな形であろうと、海の向こうにいれば、日本の家族や友達は心配しているかもしれない。人の移動は制限されても、まだ輸送は生きているのなら。メールやメッセンジャーもいいけど、手紙でも書きませんか。
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